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かつてのユーゴのように異民族、言語等での経験がない日本

日本人の不得意科目~ユーゴスラヴィアの数え唄から読む~

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
サラエボ事件から100年。節目の年にかつてユーゴスラヴィアという国で流行った数え唄を思い出した曽根泰教氏。果たしてそのことが日本の不得意科目とどうつながってくるのか。具体的事例を交えながら、曽根氏が解説する。
時間:09:57
収録日:2014/07/14
追加日:2014/10/23
≪全文≫

●日本人の得意科目が不得意の中に入ると機能不全を起こす


 「日本人の不得意科目」という、非常に奇妙なタイトルのお話をします。不得意科目といっても、外国語が弱いとか、理系の科目が弱いとか、そういう話をしているわけではありません。今年は第1次大戦から100年、サラエボの事件から100年ということで、一つの節目の年だったわけです。それから、ボスニア・ヘルツェゴビナがワールドカップに出場しました。日本との関係で言えば、イビチャ・オシム氏はその国の出身で、かつて日本代表の監督だったわけです。

 そこで、一つの面白い数え唄を思い出しました。その数え唄は何かといいますと、かつてユーゴスラヴィアという国があり、われわれが学生の頃は、「東ヨーロッパで民主主義資本主義があるのはユーゴだけだ」というので、学生の中にはずいぶん研究した人がいたわけです。今ユーゴスラヴィアという国はないのですが、チトー大統領の頃、当時流行った歌に、

 ユーゴスラヴィアは
 七つの国と境を接し
 六つの共和国に分かれ
 五つの民族からなり
 四つの言語をしゃべり
 三つの宗教を信じ
 二つの文字を使う
 だが国は一つだ

 というものがありました。「だが国は一つ」なのです。

 ところが今、一つではないわけです。

 この数え唄は何を指しているのかといいますと、全て日本とは違うということです。日本は、陸上で国境を接していません。道州制と言いますけれども、連邦ではなく、連邦国ではありません。民族はおおむね一つです。言語も一つです。宗教も広く言えば一つ。文字も、漢字仮名交じり文で一つです。だから、日本人が日常的に接している文化、基盤というのは、このユーゴとは全く違うのです。日常的に民族が違い、言語が違い、そして、宗教が違うという、そういう国ではないのです。日常そういう経験をしていないということは、ある意味で、あまり得意ではなく、不得意科目になるわけです。

 では、日本が得意なもの、得意科目は何でしょうか。例えば、電車が時間通りに走るとか、おもてなしだとか、あるいは和食だとか、これらは得意科目だと考えられていることなのですが、ひとたびこの和食やおもてなしが先述した不得意の7科目、七つのことのほうに入ると、急激に機能不全を起こすのです。


●ベジタリアンを理解することはとても難しい~和食は大変~


 例えば、私の知り合いの友人にアメリカ人のベジタリアンがいて、原理主義的ベジタリアンと呼んでいいかもしれませんが、その人が「京都に行きたい」「京都で旅館に泊まって和食を食べたい」と言いました。そこで、予約を頼まれた人が、京都中の老舗旅館に電話をしたところ、本当のベジタリアンに対応ができるところは1軒しかなかったと言うのです。なぜか。それは簡単で、原理主義になると、かつお節だしが駄目なのです。つまり、昆布だしでしか料理をしないというのは、和食の板前さんから言えば、飛車角とって将棋をさすようなもので、ほとんどお手上げです。

 私にも経験があって、付き合いのあるユダヤ人の家族が、あるとき日本に来るというので、フレンチレストランに連れて行こうと思いました。もちろんユダヤ人だということをシェフには伝えてあったので、それなりに準備してくれていたのですが、前の日に、そのファミリー、親戚の若い子から、「私はベジタリアンです」と念押しの電話があったのです。「これは原理主義だとしたら困ったな」と、そのフレンチシェフに「野菜でスープをとってくれ」とわざわざ頼みに行って、何とかしてもらったのです。

 ところが、その若者は、翌日アメリカから来た家族とやってきて、一緒に食べたのですが、そのときに、「私、魚食べます」と言うわけです。これにはむっとして、怒りました。彼が言うベジタリアンというのは、「お肉を食べない」ということだけだったのです。私は、てっきり原理主義者のベジタリアンだと思っていたわけです。先ほど言ったように、原理主義のベジタリアンになると、かつお節のだしでさえ駄目ということになるので、魚も食べられないと思っていたのですが、そうではなかったのです。これは和食の世界では大変なことです。


●ベジタリアンを理解することはとても難しい~認定したものがある~


 そういうことで言うと、ベジタリアンにも多様な人たちがいます。昔、日本人が優秀なインド人の若者に、カレーライスをつくってごちそうしました。そうしたら、宗教的な理由なのかカーストなのか分かりませんが、その人は「お肉は食べられない」と言って、一生懸命肉をどけたのです。しかし、単に肉をどければいいという話ではないわけです。

 アメリカの国務省で招待され国内を旅行したとき、各国の人たちと一緒にまわったのですが、飛行機の機内食でサンドイ...
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