●乱戦の中でも冷静な判断力はどうすれば保てるか
その次は、「紛紛紜紜<うんうん>として闘ひ亂<みだ>れて、亂す可からず」です。紛紛紜紜というのは、まず紛紛は「紛紛として」という言葉がありますが、要するに紛れるようなという意味で、紜紜は物が多く乱れているということを表しています。言ってみれば、戦場は乱れに乱れて、奇生の変がもっと乱れた状態であり、「闘ひ亂れて」いるというように一見なっていますが、「亂す可からず」なのです。これはすごく重要なことです。要するに、乱れるくらいにバリエーションを徹底して繰り出しているのですが、どこかシーンと冷静になって己を見ているところがなければ、己も乱されてしまうということです。
ですから、「亂す可からず」で、乱してはいけないというところがあるのが、戦いには非常に重要です。特にリーダーは、敵味方、相まみえて乱闘になっているときに大切です。乱闘になっていてもそのチームの長である人間は、その渦中にあったとしても冷静にきちんと周りを見て、クールな判断力を維持しなければいけないということを言っているわけです。
そして「渾渾沌沌」ですが、これは渾沌ということです。渾はどっと水が流れることで、沌はぐるぐる水が回っていることです。それから「形圓にして、敗る可からず」ですが、これは、くるくる回っているけれども、それがパーッとやぶれる、要するに八方に散った瞬間に円は乱れて、保たれなくなりますから、それは駄目だと。ですから、故意に円を描いて、敵を翻弄するということです。
したがって、こちらも乱れるくらいに一緒になって乱れるというような部分が、戦いのときはなければいけないが、心底から乱れては駄目だということです。非常に冷静さを保持できて、頭の中はクールになっている。けれども状態は乱れている。ということが重要だということをいっているので、これはすごく重要なことです。つまり、自軍の現在の状況を客観的に冷静に見て取れているリーダーがいるかどうかが重要だといっているのです。
●慎重の裏側には強く怯まず動じない中身がなければならない
それから次の「亂は治より生じ、怯<きょう>は勇より生じ、弱は彊<きょう>より生ず」です。つまり、外側の乱れというのは、内側が治まって...