●販売を管理下に置かない製造や、モジュール化が要因の一つに
―― 最初にお話しいただきたいのが、日本企業の凋落についてです。この10年で家電・エレクトロニクス業界が凋落してしまいましたが、それと同じようなことが、例えば化学など、いろいろな業種でも起ころうとしています。まず、そのあたりのお話を聞かせていただければと思います。
小林 エレクトロニクスの中でも、どちらかというと、コンシューマー・エレキですよね。販売を全くコントロール下に置かないで、製造だけをやってきたというパターンが、自動車業界とは一部違うところがあります。
いろいろな原因があると思いますが、アカデミアでの分析では、デジタル化が進んだことによるモジュール化が原因だと言われます。誰でもどこかから部品さえ調達すれば、それを組み立てられるので、もう差異化ができなくなってしまった。それも、一つの原因でしょうね。
―― アナログの時代からの変化ですね。
小林 アナログからデジタル化することで、何とも言えない「隠せる部分」がフルオープンになってしまった。クローズ・オープンで言えば皆、オープンになりましたから、仕掛けをつくりようがない。中を開いてまねをしようと思ったら、本質的にまねができます。それで、あまりパテントやIP(知的財産権)に対してコンプライアントでない人たちが、平気でまねをしてしまったということもあると思います。まず、それが原因です。
●一瞬の戦いの中で受けた、為替による大打撃
小林 あるいは、過当競争の問題です。例えば韓国の企業と比べると、日本は非常に会社の数が多かったこともあります。
それから、僕などの感覚で言えば、まず、基本的には「為替」ではなかったかと思うのです。為替は「言い訳だ」とおっしゃる方が非常に多いのですが、しかし、この間、為替によって相当な競争力(コンペティティブネス)が付いているところも一部にはあるのです。その上、収益的に言えば、為替が20円変わることでこれだけの変化があったのですから、為替による原因はとても強かったのではないでしょうか。
しかし、ダメージを受けて死に体になってから為替がよくなっても、もはやどうにもならないのです。ボクシングに例えると、大きなパンチを一発食らってしまえば、なかなかリカバリー・ショットを送れるほどの元気は保てない。一瞬の戦いの中で、ものすごいハンディキャップ・レースを強いられてしまったというか、イコールフットができていない。そういうことが先鋭的に表れたのが、グローバル化の進んだ中でのエレクトロニクス産業だったのでしょう。
●「モノからコトへ」の変化に対する把握の出遅れも一要因
小林 それでも、インフラ系の製品や機械とうまくマッチした製品など、重電的な分野については、まだまだ道が開かれています。今、注目のインドなど、アジアの同胞と一緒にウィン・ウィン・ゲームを構築できるのではないかと思うのです。重電・重工系が復活してきているのは、ある意味で、その象徴のような気がします。
―― そうですね。日立にしても、東芝にしても。
小林 それで三菱重工もやはりそれなりの存在感が出てきていて、三菱電機もしかりですね。かつてのコンシューマー・エレキが1990年代初頭に台頭して、2000年まで「エクセレント・カンパニー」と呼ばれていたのは、まさにソニー、パナソニック、パイオニア、シャープ、三洋だったのです。そこはもうがらりと変化しました。
そのように見ていくと、コンシューマー・エレクトロニクスを取り巻く変化も一つの原因でしょう。スティーブ・ジョブズに代表されるような、ICTの発展です。コミュニケーションとしてのツールでは、ソフトウェアをうまく使うことがメインであり、製品や技術はむしろ部材・部品に位置づけられる。液晶テレビそのものは、「単なる映す機械」でしかないという捉え方が出遅れたのではないかという気がします。
●法人税率の高さも影響、凋落要因が重層的に到来し、全てが見事に重なる
このように、五つも六つもの原因が重層的にやってきた。イコールフットはされていないし、法人税もしかりです。せっかく儲けたお金がほとんど国に吸い上げられる。これは韓国と比べると歴然としています。日本では法人税として利益の40パーセント取られるところを、韓国の場合は実効的に5パーセントから10パーセントしか取られない。その分を研究開発の方に回せたということが、大きいのではないでしょうか。
―― 40に比べて5~10では、もう勝負にならないでしょう。
小林 ならないと思いますね。
―― それに為替が加わるのですね。
小林 ある人の試算によると、三星(サムスン)と例えば東芝を比較すると、毎年1兆円ぐらいその差があったそう...