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古代ローマの公衆浴場と江戸の銭湯…風呂は楽しい社交場

江戸とローマ~テルマエと浮世風呂(2)お風呂は社交場だった

本村凌二
東京大学名誉教授
情報・テキスト
古代ローマの公衆浴場(イギリス:バース)
日常的にお風呂に親しむ日本人は見落としがちだが、入浴文化は良質な水の大量確保に支えられている。ローマも日本も、文字通りその恩恵に浴してきた。公衆浴場や銭湯には町の社交場の機能があったし、体を清潔にしたり、体の芯まで温めたりするお風呂は「医者殺し」と位置付けたほどの効用を持っているのだ。(全3話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:56
収録日:2021/05/24
追加日:2022/02/11
タグ:
≪全文≫

●午後は男性、午前は女性が通った古代ローマの公衆浴場


―― 先生がおっしゃったお風呂の文化にしても、水が臭ったり汚かったりしたら、なかなか成立するものではないですね。やはりきれいな水があってこそ成立するものだと思います。

 ローマでお風呂というと、有名な漫画になったりするなどいろいろありますけれども、ローマのお風呂文化というのはどういうものなのですか。

本村 別にローマのお風呂というものが最初からあったわけではありません。ただ、ローマ人は清潔志向が強かったのかもしれません。例えばギリシアやカルタゴへ行くと、家庭にお風呂があるにはあるものの、小さい。大人が一人入ればすぐいっぱいになるようなお風呂しかありません。

 これは建物についてもそうですね。私が古代ローマの遺跡調査グループに入った時も、一緒に参加していたギリシア史関係の人たちは見た途端に「ギリシアとローマでは家の規模が違う」と言っていました。ポンペイに行けば、町の有力者の邸宅などが残っています。これなど、ギリシアでいくと王侯貴族が住む者に当たるという。規模が一回り違うわけです。

 お風呂については、ローマの場合は大々的に公衆浴場を発展させました。そのほうが効率がいいということもありますし、社交場にもなるわけです。みんなだいたい午前中は仕事をするから、お風呂には午後に入りに行く。

 昔は電灯などもないわけだから、日が昇ってくるとすぐに農作業に入るなり仕事をし始めて、昼の12時か1時ぐらいには仕事を終えた感じです。それでも6時間ぐらいは働いています。その後、夜にお風呂に行くのではなく、灯りもあまりないですから、日が射している午後の間にお風呂に行く。

 ローマのお風呂は混浴だったかどうか、とよく聞かれますが、それほど女風呂・男風呂を厳密に区別していなくて、だいたい午前中に女性が入っていたのではないかといわれています。それで、午後は男性が入る。

―― はい。


●お風呂の文化と町の社交場的役割


本村 お風呂の文化ができたため、きれいな水を確保することに対して、よりひとかたならぬ関心が芽生えたのでしょう。そのお湯も、ローマの場合は3種類ぐらいありました。冷たい、中ぐらい、熱いという3種類です。その程度に区別して、そのときの自分の体調や好みに合わせて好きなところに長く入るなりしているわけです。

 それから、中には遊戯場があり、図書室のようなものもありました。午後いっぱいを過ごすわけですから、そこで会う人と楽しんだり、お酒を飲んだりもしていたのだと思いますが、本を読んだりもする場所だった。すなわち社交場だったわけです。

 日本の銭湯にも、そういう側面があったのではないかと思います。今は銭湯自体が少ない時代ですが、独身生活をする個人が、家に風呂がないという理由で銭湯に行くことはあるでしょう。

 昭和30年代には風呂のない個人住宅も結構ありました。私自身、高校時代まではそういうお風呂のない家に住んでいたため、銭湯通いが常でした。そういうときに、一人で行かずに友達と誘い合わせていくわけです。そうすると、一種の社交場になってくる。

 戦後でもそうでしたから、戦前も、まして江戸時代などもっと近所付き合いの濃い中で、八つぁん熊さんが来ている、という社交場的なところだったと思います。


●ローマ時代のお風呂を観光ポイントとして再現


―― 日本には今でも「スーパー銭湯」などのかなり大規模な施設があり、土日などに行かれる方も結構いらっしゃると思います。今のヨーロッパのお風呂文化というのはどうなっているのでしょうか。もうあまりそういう文化はないですか。

本村 ほとんどないですよ。ただ、ドイツに「バーデン=バーデン」というところがあり、"Baden"がドイツ語でお風呂を意味しています。そこには「ローマ風呂」があるので、入って来れば良かったと今では思うぐらいです。ただ、向こうでは入浴するときに素っ裸というわけにはいかず、それなりの水着をつけて入らなければいけません。

 ローマ時代のお風呂を遺跡としてではなく、"Romische Baden"(編注:Rの後「o」の上にウムラウト)という形でちゃんと再現しています。それは見世物というか、観光ポイントになっています。

―― アトラクションというと変ですが、そういう感じですか。

本村 そうそう。それはバーデン=バーデンだから今でもやっているわけです。バーデン=バーデンはリウマチなどに効く温泉が出たらしく、ローマの皇帝も滞在して治療にあたったという話もあります。

 水源を探していると、場合によって温泉のようなものが出てくるところもあるので、それを利用していた。ナポリ近郊も火山の近くですから、そういう場所があって、それを...
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