●午後は男性、午前は女性が通った古代ローマの公衆浴場
―― 先生がおっしゃったお風呂の文化にしても、水が臭ったり汚かったりしたら、なかなか成立するものではないですね。やはりきれいな水があってこそ成立するものだと思います。
ローマでお風呂というと、有名な漫画になったりするなどいろいろありますけれども、ローマのお風呂文化というのはどういうものなのですか。
本村 別にローマのお風呂というものが最初からあったわけではありません。ただ、ローマ人は清潔志向が強かったのかもしれません。例えばギリシアやカルタゴへ行くと、家庭にお風呂があるにはあるものの、小さい。大人が一人入ればすぐいっぱいになるようなお風呂しかありません。
これは建物についてもそうですね。私が古代ローマの遺跡調査グループに入った時も、一緒に参加していたギリシア史関係の人たちは見た途端に「ギリシアとローマでは家の規模が違う」と言っていました。ポンペイに行けば、町の有力者の邸宅などが残っています。これなど、ギリシアでいくと王侯貴族が住む者に当たるという。規模が一回り違うわけです。
お風呂については、ローマの場合は大々的に公衆浴場を発展させました。そのほうが効率がいいということもありますし、社交場にもなるわけです。みんなだいたい午前中は仕事をするから、お風呂には午後に入りに行く。
昔は電灯などもないわけだから、日が昇ってくるとすぐに農作業に入るなり仕事をし始めて、昼の12時か1時ぐらいには仕事を終えた感じです。それでも6時間ぐらいは働いています。その後、夜にお風呂に行くのではなく、灯りもあまりないですから、日が射している午後の間にお風呂に行く。
ローマのお風呂は混浴だったかどうか、とよく聞かれますが、それほど女風呂・男風呂を厳密に区別していなくて、だいたい午前中に女性が入っていたのではないかといわれています。それで、午後は男性が入る。
―― はい。
●お風呂の文化と町の社交場的役割
本村 お風呂の文化ができたため、きれいな水を確保することに対して、よりひとかたならぬ関心が芽生えたのでしょう。そのお湯も、ローマの場合は3種類ぐらいありました。冷たい、中ぐらい、熱いという3種類です。その程度に区別して、そのときの自分の体調や好みに合わせて好きなところ...