江戸とローマ~テルマエと浮世風呂
この講義シリーズの第1話
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
ローマの公共事業を担った富裕者層のエヴェルジェティズム
江戸とローマ~テルマエと浮世風呂(3)公共事業とエヴェルジェティズム
本村凌二(東京大学名誉教授/文学博士)
日本では水路整備が名君の条件とされたが、ローマでは帝政の始まる頃、すでに水道橋整備が終わっていた。そうした社会資本の公共事業を支えたのは、「エヴェルジェティズム」である。持てる者はその富を社会に還元すべきというその行動原理が、パンとサーカスのローマを支えた。(全3話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:9分37秒
収録日:2021年5月24日
追加日:2022年2月18日
カテゴリー:
≪全文≫

●エヴェルジェティズム~持てる者が社会に還元する~


―― 江戸は元来海沿いの土地ばかりだったので、中心部では井戸を掘っても塩水ばかりが出てきてしまう。しょうがないので玉川上水を引く、ということになりました。そうしたインフラ整備は為政者として当然なすべきことだったでしょう。

 各藩でも、例えば伊達政宗が(北上川の)水路を整備したなど、いろいろな話があります。基本的には水路整備をどうするか、暴れ川をどのように付け替えるかといったあたりが、名君の条件としてうたわれるところになります。

 ローマではどうでしょう。例えば水道を引いた皇帝が名君といわれたりしたことはあったのでしょうか。

本村 こうした社会資本については、ローマでは皇帝が出てくるような時代にはもうほとんど整備を終えていました。アウグストゥスと、その少し後に最後の水道橋ができているぐらいで、ほとんどは共和政期に整えられていたわけです。

 それは、お金持ちには「持てる者はなんらかの形で社会に還元しなければいけない」という行動原理があったからです。

 「エヴェルジェティズム(evergetism、恵与行為)」という言葉がありますが、持てる者が自分だけで抱え込んでいるのはよくないという意識のことです。

 特にローマ時代というのは極端に豊かになってきたために、持っている人間は驚くほど持っている。それを独り占めにしないで還元するというのは、「サーカス」の見世物もそうだし、「パン」のほうの食料供給もそうです。公衆浴場、水道橋、道路の建設のようなものに対しても、国家が行うというよりもむしろ富裕者階層が進んでそれらを担う時代が長く続いたわけです。


●ヘイドリアン・ルネッサンス


本村 ところが、それがだんだん廃れていってしまった。そのことも、広い意味ではローマ帝国衰退の一つの原因になっていきます。そもそも皇帝のできることはローマ周辺のごく一部に限定されていて、到底ローマ帝国全体までは目が行き届かない。だから、ある時期までは皇帝だけでなく、富裕層が行っていたわけですね。

 ハドリアヌスという人は、治世20数年の間の半分は、ローマの帝国中で属州めぐりを行ったといいます。そういうときはもちろん、ハドリアヌスが来るからといって、地元民が道路を整備したり水道橋を整備したりします。

 それはハドリアヌスが出資することもあるけれ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
「武士の誕生」の真実(1)10世紀の東アジア情勢と「王朝国家」
「王朝国家」と「武士」が誕生した理由は大唐帝国の解体
関幸彦
明治維新から学ぶもの~改革への道(1)五つの歴史観を踏まえて
明治維新…官軍史観、占領軍史観、司馬史観、過誤論の超克
島田晴雄
最初の日本列島人~3万年前の航海(1)日本への移住 3つのルート
最初の日本列島人はいつ、どうやって日本に渡ってきたのか
海部陽介
百姓からみた戦国大名~国家の本質(1)戦国時代の過酷な生存環境
戦国時代、民衆にとっての課題は生き延びること
黒田基樹
徳川将軍と江戸幕府~徳川家斉(1)家斉が長期政権を維持できた理由
11代将軍・徳川家斉が50年もの長期政権を築けた理由
山内昌之
豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係(1)話し上手な天下人
織田信長と豊臣秀吉の関係…信長が評価した二つの才覚とは
小和田哲男

人気の講義ランキングTOP10
内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害
ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害
島田晴雄
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
熟睡できる環境・習慣とは(2)酒、コーヒー、ブルーライトは悪者か
ブルーライトは悪者か?近年分かった「第3の眼」との関係
西野精治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
歴史の探り方、活かし方(6)江戸時代の藩校レベルを分析
史料読解法…江戸時代の「全国の藩校ランキング」を探る
中村彰彦
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(1)ソニー流の多角化経営の真髄
ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?
水野道訓
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
ChatGPT~AIと人間の未来(1)ChatGPTは何ができて、何ができないか
ChatGPTは考えてない?…「AIの回答」の本質とは
西垣通