江戸とローマ~諷刺詩と川柳・狂歌
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冷笑から嘲笑、義憤へ、ローマ諷刺詩人の健全な批判精神
江戸とローマ~諷刺詩と川柳・狂歌(3)川柳・狂歌と諷刺詩の時代
歴史と社会
本村凌二(東京大学名誉教授/文学博士)
日本の川柳や狂歌の源流は、京鴨川の「二条河原の落書」にあるといわれる。悪政に対する批判的風刺の精神が庶民レベルにまで拡大したのが、川柳や狂歌の流行した江戸末期だった。同様のことが、ローマでは風刺詩を通じて紀元前50年頃からの約1世紀に起こる。今回は3人の詩人の作品から、その変遷を見ていく。(全4話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10分32秒
収録日:2021年6月16日
追加日:2022年3月28日
カテゴリー:
≪全文≫

●川柳や狂歌の源流は「二条河原の落書」


本村 前回のシリーズで話しましたが、江戸には非常に立派な水道が引かれていました。その水道の水を井戸にして、ある単位ごとに誰もが井戸を持ち、自分のところまで水を持っていくシステムでした。

 ところが、その水道が必ずしも行き渡らなかったり、何かの都合で廃止になったりすることもあります。玉川上水や神田上水に来ている水を配る段階での話です。そういうわけで井戸が使えなくなったので、しょうがなく自分で井戸を掘ったところがあり、それを皮肉ったものがあります。

「本所深川銭亀の反吐を呑」

 そこら一帯の水道井戸がなくなり、井戸を作ってしまったが、すぐ近くに雪隠(便所)やあくたまり(ゴミ捨て場)があるので、ろくでもない水しか出てこないということを皮肉った句です。

 それから、次はどちらかというと狂歌のようなものかもしれません。

「親の意見となすびの花は千に一つも仇がない」

 これについては、「親の説教と冷や酒はあとで効く」などと今でも言われます。つまり、大人になると分かることが、そのときは分からないでいたというようなことを、そんな句で楽しんだりします。

「雪の朝これが塩なら大儲け」

 というのも、やはりこれを塩として売れば大変な額になるという面白みです。砂糖という説もありますが、砂糖ならもっと高いでしょうね。そういうものもあります。

 もともと京都には、狂歌の元になるようなものとして、二条河原の落書がありました。

「此比(このごろ)都ニハヤル物/夜討(ようち)強盗謀綸旨(にせりんじ)」

 「謀綸旨」は偽の命令書ですが、そういうものが強盗などと同じように出てくるということが、京都ではいかにも古くから言われていた。そういうものが、江戸の中にも自由なかたちかつ庶民レベルで楽しめる余裕が出てきたところが、非常に面白いところではないかと思います。

―― 川柳で非常に有名なのが『誹風柳多留』という句集ですが、あれができてくるのが明和2(1765)年から幕末ギリギリの天保11(1840)年まで。最終的には167編が刊行されたようですが、そこまでずっと営々とつくられ続けたということなので、やはり先生がおっしゃるように江戸の後期のタイミングになりますね。その時代に、庶民もこういうものを大いに楽しんでいく形になるわけですね。

本村 そうです。...

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