●新たな実践段階に入ろうとする「プラチナ構想ネットワーク」
小宮山 今日お話したいのは、プラチナ構想ネットワークとして考えてきたことから、少しずつ実践に移せそうなものも出てきたということです。プラチナ構想ネットワークは、地域に新しい産業をつくって地域おこしをして、日本全体を活性化します。そして、日本は課題先進国ですから、その課題を解決して起こした新しい産業が世界を牽引するようになり、日本は東南アジアを中心に世界に出ることができるというもので、私はこのことを終始一貫述べてきました。
もう少し大きな意味で言いますと、世界で今、何が問題になっているかというと、今の市場に委ねるだけの資本主義で今後やっていけるのか、どんどん格差が開いていくという状況でやっていけるのかという不安が極めて多くの識者の間に生まれてきています。トマ・ピケティの“Capital in the Twenty-First Century”(邦題『21世紀の資本』)が世界のベストセラーになったり、ハーバードのビジネススクールですら“Capitalism at Risk(危機にある資本主義):Rethinking the Role of Business”(邦題『ハーバードが教える 10年後に生き残る会社、消える会社』)というような本を出すなどといったことにも、それが表れています。日本でも格差が大きくなってきているという話は、いろいろ言われています。
そういった問題を抱えつつ、いま世界が大きく依存する資本主義というシステムに、新しい命をもう一回吹き込んでいく。大きな意味で言うと、そのようなことの小さなスタートが切れそうな段階にまでなってきたという話なのです。
●プラチナ構想スタートの鍵となるのは、安定電源である水力発電
小宮山 具体的に、それは水力発電でスタートが切れそうです。佐久間ダムや黒四ダム(黒部川第四発電所)といった巨大なダムは、もう日本にはつくる余地もあまりないですし、必要もなくなってきています。けれども、水が流れている所はすべからく水力発電で電気がとれるので、小規模なもので良いのです。
もし、これら全部に水力発電をやったとしたら、原子力発電所にして15基分ぐらいの規模になるのですが、私の試算によると、わりあいできるという所を稼働させるだけでも、5基分ぐらい、500万キロワット分ぐらいになるのではないかと考えています。
水力発電は、非常に良いのです。再生可能エネルギーの中でも、太陽電池と風力発電はお日さま任せ、風任せですから非常に不安定ですので、そのことから「再生可能エネルギーは不安定だ」と言われているのです。しかし、水力発電は、水がずっと流れている所から電気をとるので、安定電源なのです。ですから、質的にも極めて高いのです。
●稼働率のよい水力発電のメリットを生かすには、コスト構造の見直しが不可欠
小宮山 しかし、この水力発電は今、価格が案外高いのです。具体的に言うと、1キロワット150万円というような価格が言われています。補助金があれば成り立つのですが、補助金をもらわないとなかなかできないという状況にあります。
ところが、私はコストの構造を調べて、150万円の価格は3分の1にはなるはずだと、最初から言っています。それに今度、プラチナ構想ネットワークの中で、神蔵孝之さん(イマジニア株式会社代表取締役会長兼CEO、プラチナ構想ネットワーク幹事)の人脈から分かったことなのですが、「どうももっと安いらしい」というので構造を伺ってみると、1キロワットあたり60万円ぐらいまで下がってきているのです。これは、「150万円は3分の1に下がるはずだ」と、私が最初から言っている線にかなり近づいてきているのです。
でも、いい話はまずは疑わないといけませんから、その価格の構造を調べて伺ってみたのです。これは非常に信頼性の高い話で、具体的には日揮株式会社におられたエンジニアの方がご自身で会社を起こされて、水力発電の設備がどのような部品からできていて、最後に発電機として組み上がるのか、そこまでのサプライチェーンを全て調べたのです。その上で、例えば、「ここは高すぎる」とか「横のプロセスを一部省いてしまおう」などというような形でサプライチェーンを考え、なおかつ、1基ではなく100基ぐらいつくるというようなことを考えると、60万円という価格で十分実現できるのです。そうすると、いよいよ補助金なしでもできるような状況まできているということになります。
このようなことは、簡単に考えると分かります。水力発電は100パーセントではないけれども、活水器がありますから、7、8割は稼働するのです。太陽電池は、東京でお日さまが出ている時間から、稼働率がだいたい12...