●インド神話を学ぶ前にまず知っておくべきこと
―― 皆さま、こんにちは。
鎌田 こんにちは。
―― 本日は鎌田東二先生に、インド神話についてのお話をいただきます。鎌田先生、どうぞよろしくお願いいたします。
鎌田 よろしくお願いします。
―― インド神話というと、最初にわれわれが知っておくべきはどのようなことでしょうか。
鎌田 まず(インドは)広大であるということと、人口がすごく多いということです。そして「インド亜大陸」と呼ばれる、東と西をつなぐような特殊な場所にあって、ギリシア・ローマの世界ともつながり、そして中国ともつながっていく。日本は仏教でものすごく影響を受けています。そのようなものとしてインドが持っている、インド・ヨーロッパ語族といわれるものも含めて、インドの歴史、空間、地理は、世界に非常に大きな影響を与えています。
―― 例えばアレクサンダー大王が攻めてくるなど、今おっしゃったような…。
鎌田 東西の(交流の)十字路のようなところですね。
そして、宗教もバラモン教、それが統合されて民間信仰とつながって、ヒンドゥー教、ジャイナ教、仏教、イスラーム、そして近代になるとキリスト教が入ってきますから、非常に混淆したものを持っている。言語も、日本のように日本語、アイヌ語など少数のもので成り立っている国とは違って、たくさんの言語を持っているわけです。
そして、種族、民族、部族もそれぞれの多様性を持っていて、長大な歴史(文明的には5000年、あるいはもっと遡ると1万年という歴史)を持っている。それが一定程度、きちんと記録に残っていることも非常に重要です。その記録の最も古いものが『リグ・ヴェーダ』という、今から3000年ほど前のものだとされています。『リグ・ヴェーダ』とは、神々の讃歌集です。
―― 「神々を讃える歌」ということですね。
鎌田 そうです。『ヴェーダ』には『リグ・ヴェーダ』『サーマ・ヴェーダ』『ヤジュル・ヴェーダ』『アタルヴァ・ヴェーダ』の4つあり、最後の『アタルヴァ・ヴェーダ』は呪文のようなものです。その神々の讃歌の中で、最初の『リグ・ヴェーダ』という讃歌集の中に、神話的な部分が断片的に述べられている。
それをベースにして、やがて『マハーバーラタ』や『ラーマーヤナ』など、いろいろな物語ができています。これらは日本でいえば、源平の合戦を描いた『平家物語』『太平記』といったものに当たります。もともとの『古事記』や祝詞のようなものが、『リグ・ヴェーダ』集に当たるということになります。
●ガンジーに大きな影響を与えた古典『マハーバーラタ』
鎌田 その『マハーバーラタ』の中の一節に、有名な「バガヴァッド・ギーター」というものがあります。この「バガヴァッド・ギーター」が、例えばインドを独立に導いたガンジーの座右の書であったということも非常に重要な点です。
―― 今、ガンジーのお話が出ましたけれども、ガンジーはイギリスにも留学しています。弁護士であり、現代文明に深く触れた一人です。そのガンジーが、「バガヴァッド・ギーター」に戻っていくというか、それをベースにしていくことになるわけですね。
鎌田 このあたりを調べていくと、面白いことがいろいろとあります。19世紀末にイギリスでは神智学が広がっていくのですが、ブラヴァツキーというロシアの夫人などがその神智学を広めていきます。そういった流れの中でガンジーは、神智学者のサークルを通して「バガヴァッド・ギーター」を読む。その「バガヴァッド・ギーター」が彼の生涯大切な真理把握(「サティヤーグラハ」といいますが)、彼の心の拠りどころになっています。
では、そこに何が書かれているか。いってみれば、自分たちの国の独立などに向けた戦いの中ではどのような精神性をもって戦い抜いていくのかという心得、その現実をどう捉えるのか、といったことが描かれているのです。
そこで登場してくる主人公は、アルジュナという戦士(王子)です。その王子が、従兄弟であり、従者でもあるクリシュナ(笛の名手でもあり、神様の化身とされている)からダルマやヨーガを学びます。そして戦士の義務、そして神々へどのような帰依、献身をするのか、奉仕をするのか、といったことが説かれています。それをガンジーは、自分自身の生き方の基本に据えていったということになります。
―― 「ダルマ」や「ヨーガ」という言葉は日本でも聞くことがありますが、これはどういう意味になるのですか。
鎌田 ダルマは「法」「真理」といった意味合いを持ちます。そして、ヨーガは「結びつける」「(神と人間、世界と私を)結びつけて1...