●『平家物語』同様、兄弟で系統が分かれた『マハーバーラタ』
―― 続きまして、インド神話の全体像、概説的なあらすじという話に入ります。インド神話にもいろいろな体系がありますから、どのように捉えるかというところになります。
鎌田 インド神話を体系的に表して言うことはできません。先ほど言ったように『ヴェーダ』は断片的なものですから、どのようなストーリーかということを、『古事記』のようにひとまとまりのものとして、1つのテキストで全体を結末まで述べるといった話ではないのです。
けれども、「バガヴァッド・ギーター」を含んでいる『マハーバーラタ』は、全体が大きな『ギルガメッシュの物語』のような大叙事詩なので、叙事詩としてのあらすじを持っています。
これはまさに、日本的にいえば源平の合戦、『平家物語』のようなものです。2つの王家が争います。1つはパーンダヴァ王家、もう1つがカウラヴァ王家です。パーンダヴァ王家には5人の王子がいて、カウラヴァ王家には100人の王子がいる。ですから、王位継承をめぐる国土の奪い合い、あるいは王位の奪い合いといったことが大きなテーマとしてある中で、愛憎を含めてさまざまな周辺的な物語が描かれるという一大叙事詩になります。
その王家の始まりが、これまた複雑で面白い。ハースティナプラという国のシャーンタヌという王様が、ガンジス河の女神と結ばれます。女神と人間の男(国王)が婚姻するという形です。
―― シャーンタヌは神ではないのですね。
鎌田 シャーンタヌは人間の王様です。それがガンジス河の女神に恋をして、恋い焦がれて結婚する。女神に許されて婚姻を結ぶときには、「絶対に自分(女神)が行うことを止めてはいけない」といった約束事がある。次々と7人の子どもが生まれるのですが、それを次々とガンガー(女神)が殺していくのです。
このまま行くと子どもがいなくなってしまうという不安に駆られた国王が、(次に生まれる)8番目の子どもをどうしても殺されたくないので隠す。このようなことから国王と女神が別れてしまうということになっていきます。
そしてその後、その8番目のデーヴァヴラタという王子が王位を継承する。日本でいえば皇太子になるはずなのですが、非常に複雑な生まれや生い立ちを持っているので、彼は王位継承権を放棄して、...