折口信夫が語った日本文化の核心
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寅さんも水戸黄門も…「ほかひびと」が伝承した貴種流離譚
折口信夫が語った日本文化の核心(3)貴種流離譚と型の文化
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
日本の物語の多くは古来から「貴種流離譚」といい、偉い人が流浪の旅を続ける苦難の物語である。折口信夫は、そうした物語を伝承したのは自らも流浪の民だった「ほかひびと」だと指摘している。さらに語りには必ず弦楽器を伴い、それが日本の文化の「型」でもあるという。『万葉集』では、最初に男性から歌を詠んで、そこでまず女性は「跳ね返す」が、これも1つの「型」である。そうした「型の日本文化論」を展開してきたのが折口信夫である。(全4話中第3話)
時間:16分52秒
収録日:2022年9月13日
追加日:2023年1月9日
カテゴリー:
≪全文≫

●日本の物語の多くは「貴種流離譚」


 折口信夫は大きくものを見ることによって、見えてくるものがあると教えてくれます。他界から神がやって来て、流浪の生活をしながら、また他界に戻っていく。日本の物語のほとんどが、偉い人たちが旅を続けていく苦難の物語になっているのはなぜかと考えるのです。

 これが有名な折口信夫の「貴種流離譚」の説です。「貴種」とは偉い人です。その人たちが流離して旅を続ける。この物語の形は、古代の天皇の物語にも通じるところがあります。神武東征もそうですし、顕宗天皇・仁賢天皇の物語もそうです。

 平安時代になると、典型が「物語の出来(いでき)はじめの祖(おや)」といわれる『竹取物語』です。『竹取物語』は月の世界からやってきて、竹取の翁(おきな)と媼(おうな)に育てられ、大切にされるけれど、また月の世界に戻っていく話で、これも貴種流離譚です。

 『伊勢物語』もそうです。『伊勢物語』は「身を要(えう)なきものに思ひなして」、つまり自分を世の中ではもう役に立たない者と思って、東下りする話です。その東下りする途中に、いろいろな苦難に遭遇しながら主人公が成長していくのです。

 このタイプの話は、現在も続いています。『水戸黄門』も本来は偉い人が、いろいろなところを訪ね歩いて、悪事を働いている者を懲らしめて、また旅を続けていきます。これも貴種流離譚といえなくもありません。

 さらには、映画のほとんどが、さすらい者シリーズです。例えば『ギターを持った渡り鳥』もそうです。「寅さん」だってホームベースは柴又ですが、寅さんが旅を続けていくことにより、いろいろな人と出会っていく物語です。これが貴種流離譚という物語パターンになっているわけです。


●「歌」も「語り」も楽しむ日本の文学


 さらに、折口信夫はそうした物語について、自分自身も流浪の民として歩いていた「ほかひびと」たちが長く伝承していったのだろうと言っています。彼らはほとんどの場合、弦楽器を持って語ります。

 これが折口信夫の面白く、大胆なところです。日本の語り物芸は、必ず弦楽器を伴うというのです。古い時代は、琴であったと。実際、『日本書紀』などを読むと「琴で語る」といった内容が出てきます。その次は、琵琶であると。琵琶の語りとなると、これは『平家物語』になります。

 さらにその次は、大陸から渡来...

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