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『潮騒』と『太陽の季節』…美への憧憬vs煽情的な太陽族

石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿(4)三島と石原の芸術性は対極的

片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家
概要・テキスト
三島由紀夫と石原慎太郎はほぼ同時代に活躍した作家であるといえる。しかし、二人の作品を見ると、似たモティーフを用いつつも、その扱い方が全く異なることが見て取れる。交流があり影響し合った二人が、それぞれ何に重きを置き、お互いをどのように捉え、それが作品にどのように表れたのか。『潮騒』と『太陽の季節』という両者の若い頃の代表作を取り上げて考えていく。(全9話中4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:14:21
収録日:2022/03/18
追加日:2022/06/29
タグ:
≪全文≫

●お互いに影響し合っていた三島由紀夫と石原慎太郎


―― 今、片山先生から三島由紀夫さんについての言及がありました。お互い対談なども数多く行っていますし、三島由紀夫さんも石原慎太郎さんのことを買っていたり、批判したりと、いろいろな時期がありました。2人の文学を比べて、片山先生はどう分析されますか。

片山 三島由紀夫さんのたくさんの作品と、石原慎太郎さんのたくさんの作品を比べると論点はいくらでも出てくるし、当然ながら簡単に語り尽くせるはずもありません。しかも、お互いかなり意識し合っていた面もある。だから単に、「同じ時代や少しずれた時代に、こういう作品を書いて、そのモティーフはこういう点が似ていて、全く違うのだ」ということを指摘するだけでは足りません。あの二人には相互影響があるのです。「三島さんがこういうものを書いているから、僕はこういうものを書いてみようかな」とか「石原がこんなものを書いているのなら、僕はこうだ」といった具合に。

 政治においても、「石原慎太郎が自民党だったら、僕は楯の会だ」となります。また「石原慎太郎が映画界で頑張っているのなら、僕(三島)も映画の主演をしてしまおう」ともなる。三島由紀夫さんは映画にもとても興味を持つけれど、石原慎太郎さんのほうが先行していますから。

 スポーツもそうです。三島由紀夫さんが身体を鍛えたのも、石原慎太郎さんが「太陽族」で、サッカーなどで鍛えているからでしょう。石原慎太郎さんが小説にボクシングのイメージをやたらと出して、「男がたくましく殴り合う、あの快感こそが男性的なものの最も赤裸々な表現だ」とすると、三島由紀夫さんが「僕はボディビルダーだ」となってしまうわけです。石原慎太郎の「太陽族」イメージが流行ってから、すぐ後に三島由紀夫さんはボディビルを始めているのですが、これは偶然ではないと思います。

 石原慎太郎さんも三島由紀夫さんも、その相関については直接的には言及していないと思います。けれども年代記を合わせれば、石原慎太郎さんがスポーティブなイメージでカッコいいタレント的な容貌と、小説も書くという合わせ技でマスメディアの寵児になったのに対し、当時の三島由紀夫さんはすでに大有名作家になっていたし、若くして日本を代表する作家になりつつあったけれども、肉体的にはいかにもひ弱なイメージで、まさに旧制高校から東大の文...
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