石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿
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慎太郎がスポーツや五輪を強調した理由…大衆の欲望の解放
石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿(5)セクト化する三島と大衆動員する石原
片山杜秀(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)
三島由紀夫と石原慎太郎は同じ「保守」という括りにされることが多いが、2人は大きく異なっている。三島はつねに自身の美学・観念が先行していたのに対し、石原は現実の生活者・大衆の欲望を感じ取って表現した。さらに政治に対する見方も、自身の理想を先行させた三島と、つねに現在の日本を見つめた石原の違いがあった。(全9話中5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:16分42秒
収録日:2022年3月18日
追加日:2022年7月6日
≪全文≫

●観念を重視する三島由紀夫、現実を重視する石原慎太郎


片山 三島由紀夫さんの文学は、「失われたものだけど、あれが大切だった」ということを描く。失われたものを取り戻せない人間がいかに無意味で、孤独で、つらく、悩んで、虚脱して生きるか。『仮面の告白』もそうです。何か真の実感を得られないで苦しんでいる。

 もちろん石原慎太郎さんの「太陽族」も、本当の生きがいを見いだせなくて困っている人たちですが、乱暴な行動に走って解消することになる。これがもっと通俗化すれば、石原慎太郎さんのすぐ後に登場する大藪春彦さんの世界がまさにそれで、ハードボイルドです。『野獣死すべし』のように。

 石原慎太郎さんも実はハードボイルド小説を書くのが得意でしたが、ハードボイルドに行ってしまう人と、それに行けないインテリの苦悩といったものがありました。そこに行くためには失われた観念を取り戻さなくてはいけない、と。

 それが三島由紀夫さんの場合は、日本国民の99パーセントが否定しても「自衛隊を国軍にして、死なせ得る価値というものを国家に回復させるのだ。それなくして何の生きる意味があるのだ」と誰もついてこないようなことを言う。そして、ついてくる若者だけを集めて楯の会を作る。自衛隊の中にもついてくる人がいると思って、とりあえず呼びかけてみたけれど、ついてこないのなら切腹をする。こういった華々しい、美的な死に方によって、後世に何かしらのメッセージを残す。

 小説もとりあえず全て書いてしまったから、自分の観念・美学の中で行うべきことは全て行った。『平家物語』での平知盛の美学のような「見るべきものは全て見たので、あとは死に、後世をただあの世から笑って見るのみ」といった感じだったと思います。

 それに対して石原慎太郎さんは、同じ保守的で、三島由紀夫さんの後輩のように思っている人もいるかもしれませんが、今言ったような三島美学とはまったく関係がありません。常に大衆(特に生命力の強い若者)の中にあるイライラや怒りを、『太陽の季節』のような小説によって最大化して、ぶつける。そうすると、先鋭な人たちが共感する。

 その共感の人気に乗る形でタレント化しながら、また小説を書く。これを繰り返しながら、いわゆるマルチタレントとして、映画監督も俳優もする、弟を映画の大スターにする、弟の映画のための原作やシナリオを提...

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