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日中戦争、大政翼賛会…近衛に学ぶポピュリズムの自縄自縛

石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿(8)大衆の人気に頼る政治家の失敗

片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家
概要・テキスト
近衛文麿は大政翼賛会を作りトップダウンによる強力政治を目指したが、政治の世界に仲間が多くいたわけではなく、実は大衆の情念によって生まれた政治家でしかなかった。そのため、自分の言葉に縛られ、自滅へと追いやられることになる。その点では石原慎太郎も似ており、ポピュリズム的な人気に支えられた政治家の宿命を帯びていた。(全9話中8話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:17:18
収録日:2022/03/18
追加日:2022/07/27
タグ:
≪全文≫

●政治の世界に仲間がいなかった近衛文麿


片山 近衛文麿という人は、日本人の中にある、文明開化をしてもいつまでも満たされない西洋コンプレックスのようなものや、国際社会の中で日本は日清戦争にも日露戦争にも勝ち、第1次世界大戦の戦勝国になり、国際連盟の常任理事国になり、国際的な主張がもっとできる国のはずなのに、いつまでたっても世界の中で半端な地位にあるというストレスを引き受ける最後の希望の星として人気を得るようなパフォーマンスを取り続け、結局、最後の希望の星になった。しかし、「中国などをまずやっつけて、アメリカやイギリスだって日本の力があればなんとかなるのではないか」といった人民、民衆の情念に支えられる政治家でしかなかったのが、近衛文麿さんだということです。

 近衛文麿さんは、貴族院を基盤にした政治家です。石原慎太郎さんは自民党を基盤にした政治家で、自民党の中で非常に人気者だったけれども、100人、200人の派閥を持っていたわけではなかったのと同じで、近衛文麿さんは公爵家で、貴族院の中の選挙で議員に選ばれるのではなく世襲です。華族のトップだから、近衛家の当主は選挙もなく自動的に貴族院議員になる。貴族院の中で会派に属したり、会派を作ったりしたこともあるけれど、近衛文麿さんはもともと学生時代から殿上人のトップのような立場なので、親友もあまりおらず、身近に仲間がたくさんできるというわけでもない。距離を置かれて、「ああ、近衛様だ」という感じになる。

 要するに、衆議院で原敬のように、頑張って政党の中で「誰が信用できるか」などとばかり考えて、50人、100人仲間を作っては裏切られ、「この野郎」のように大騒ぎする、といったものとは全く違うわけです。

 ところが、貴族院の近衛文麿さんしか期待できないほどの状態に陥りました。大正デモクラシーで、普通選挙法になり、政党政治の時代だといって二大政党になっていく。これからは政友会と民政党の時代だと思ったら、世界大恐慌に陥った。人気取りのために、一種のポピュリズムで政友会も民政党も調子の良いことを言うのだけれど、世界大恐慌や中国情勢は悪化していく。いくら政党が「これでうまくいきます」と言ってもうまくいかず、結局は国民を裏切るばかりで、「財閥と結託して甘い汁を吸っては国民を騙しているだけではないか」と思われる政党になってしまった。

 だから...
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