●蕪村の句に見る自然と粋
本村 江戸の場合は、風流プラス滑稽だったり洒脱だったりします。庶民レベルでもいろいろなものがあったと思いますが、今回はせっかくですから江戸期の俳人として有名な蕪村と芭蕉の例を取り上げてみたいと思います。
(彼らは)いろいろな素材を題材にして俳句に詠んでいるわけです。それらは自然の中のものですから、自然の動植物を取り上げることがもちろんあります。例えば夏、蛍が出てきたときの句。
「蚊屋の内にほたる放してアゝ楽や」(蕪村)
「楽」というのは楽しいという意味ではないかと思いますが、蚊帳の中だから、蛍が出ていかない。そんなところへ蛍を持ってきて楽しみ、遊んでいるという感じです。そんな蛍を題材に蕪村が詠んでいます。
花瓶を題材にして詠んでいる句もあります。
「金屏のかくやくとして牡丹かな」(蕪村)
牡丹の花を花瓶の中に入れ、それを大きな金屏風の前に置いて楽しんでいる、というような解釈がされています。その花瓶一つとっても、そこに牡丹があって、背景に金屏風がある。そんな景色を、どこかちょっとおかしげにやっている。
金魚鉢なども題材にしています。
「硝子(びいどろ)の魚おどろきぬけさの秋」(蕪村)
ここの「魚」は金魚のことでしょうけれども、それが秋の気配の近づいてくることを感じさせる。これは実は古今集にある藤原某の和歌、「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」を題材に、それを少し縮めて「硝子の魚おどろきぬけさの秋」という、秋の気配を風の音からもうかがい知ろうとするようなところがあります。
また、江戸にはいろいろな絵画(の流派)がありましたが、ある南画の影響で詠んだものもあります。
「かなしさや釣の糸吹あきの風」(蕪村)
釣り竿の糸のちょっとした動きに感じ取る秋の風から、そのもの悲しさを詠んだものです。
●本末転倒に生きる懸命さを皮肉った銭亀の句
本村 さらに皮肉ったような句もあります。
「銭亀や青砥もしらぬ山清水」(蕪村)
この銭亀については、文学者の説明を参考にしてみましょう。「山清水」というのは(水の綺麗な)土地を示す名前で、田舎ののんびりしたところです。そこに「銭亀」が住んでいる。一方の「青砥」というのは、鎌倉時代の武士の青砥藤綱からきています。
青砥藤...