●「最善が堕落した場合、最悪になる」
執行 今、思想的に日本社会に一番重要なものが何かを考えたとき、世界中がヒューマニズムに襲われています。ヒューマニズムが行き過ぎて、ヨーロッパもアメリカも日本も身動きが取れなくなっています。
―― おっしゃる通りです。
執行 ローマ帝国が滅びるとき、ローマ帝国の賢者たちが一番重要視していた、ことわざにまでなっている言葉があります。それは「最善のものが堕落した場合、最悪のものになる」という思想です。
―― まさに今の日本社会ですね。
執行 そう。日本だけではない。ヨーロッパもそうです。移民問題一つ、ヨーロッパが止められないのも、要は人権の問題です。人権やヒューマニズムを「悪い」と言うことは、もう誰もできないのです。
ヨーロッパは散々、人権とヒューマニズムを武器に、アジアとアフリカを100年前までは植民地にしてきました。今、それにヨーロッパは返り討ちに遭っているのです。自分たちが言ってきたことだから。日本は先頭に立っていなかったから、まだいいほうです。
一番重要なことは、最善のことほど堕落した場合、最悪のものになるという考え方です。ローマ帝国の賢者たちが、この世で一番大切な思想と言っていたそうです。イヴァン・イリイチという一昔前に有名だった(オーストリアの)哲学者の本で、現代社会を考えるにあたり、今の言葉を引用されています。
ヒューマニズムはご存じのように、キリスト教から生まれています。
―― そうですね。神の厳しさが……。
執行 そう、神があってのヒューマニズムです。ところが、ヨーロッパはキリスト教を捨てたので、ヒューマニズムだけが独り歩きしています。ヒューマニズムは、キリスト教の中の最も尊い教えだから、もちろん最善のものです。この最善のものが、神を失うことによって堕落したのです。そして今、世界を覆う、悪い言葉でいうと「何でもあり」みたいな、移民一つ止められない、とんでもない事態になっているのです。
―― おっしゃる通りですね。
執行 聖書でキリストが直に話している言葉が「マタイ伝」10章34節以下に書いてあります。夫婦の愛情も大切、親子の愛情も大切、もちろん家庭はすごく重要といった内容です。
ただ、あの頃はユダヤ教社会だから、ユダヤ教の神の掟です。神の掟に家族が背いた場合は即離婚で、即親を捨てる、子ども...