●「人間はみんな平等」は、実は優しさでも何でもない
執行 ヨーロッパとアメリカは、ヒューマニズムを自分たちがやっていたので、今はもう首を絞められて動けない。今、動けるのは日本しかありません。日本はヒューマニズムではなく、もっと尊いものを持っていた国ですから。
―― もともと武士道があったし、武士階級があったからですね。
執行 もちろん慈悲や情けは大切ですが、もっと大切なものがあるということを、文化としてずっと持っている国です。だからできると思います。
―― 「もっと崇高なものがある」という意識を持っていた国ですね。
執行 そうです。だから前回に言った、イヴァン・イリイチがいつも言っているローマ帝国のことわざになるのです。ローマ帝国で一番重んぜられていた教養人の「教養の根源とは何か」ということを、当時の哲学者がたくさん書いています。そのときに必ず出てくる言葉がこれで、(つまり)ローマ帝国の時代に教養人とは何かというと、「最善の堕落したものが最悪である」ということをわかっているかどうか。つまり、ヒューマニズムは最悪なのです。
実は本当に国家や人の役に立てるのは、もう少し綺麗ではないということなのです。
―― そういうことですね。
執行 だから、「人間はみんな平等」というのは、実は優しさでも何でもない。もっとわかりやすく言うと、人間にとって一番尊い思想は、「自分の家族が一番大切」ということなのです。
―― なるほど、自分の家族が一番大切だと。
執行 人に何と言われようと、自分の子どもが一番かわいい、自分の家族が一番いいと思うことが、一番正しい。そこから出発しなきゃダメということです。そして次は、親孝行です。例えば昔は、親孝行な人間しか会社は採りたがりませんでした。
なぜなら、まず親を尊敬する。親を尊敬している人が学校に上がれば、先生を尊敬します。先生を尊敬している人が社会に出ると、会社の社長などを尊敬します。だから親孝行な人しか、昔の会社は採らなかった。
―― なるほど。
執行 私の父は大秀才でしたが、大学を出るときにものすごく心配したのは、父親が10歳で死に片親だったことです。結局、三井物産に入りましたが、成績トップで、大学もいい、全てがいいのに心配で心配でしょうがなかったのは、片親だからなのです。
―― なるほど。
執行 そのくらい、いい...