●混迷する尖閣問題を中心とする中国の活発な海洋進出
次に、安全保障戦略の中でも、アジア太平洋地域の中のリスクとして捉えられている中国の活発な海洋進出。これに対して、お話をさせていただきます。
まず、中国の活発な海洋進出の実態についてお話ししましょう。
尖閣諸島の領有を主張する中国側からの緊張状態を高める行動。これは、2008年12月の中国公船による尖閣諸島領海侵入事案、そして2010年9月の尖閣諸島中国漁船衝突事案の二つに始まります。
これを受けた日本側の行動が、2012年4月の石原都知事(当時)の尖閣諸島の都有化。そして、あえて通称で呼ばせていただきますが、野田政権による尖閣国有化がありました。
そして、今度はその日本の対応に対抗する形で、東シナ海、特に尖閣諸島周辺での中国執行機関の公船の活動が激増しているというのが、現状です。
では、中国側ではこれをどのように言っているのか。「現状、日本側は、中国の提案した『棚上げ』に変更を加え、挑発をしている」。残念ながら、この中国のプロパガンダは、私が入手している情報の範囲では、国際的にかなり定着しています。
さらに2012年には、中国側の権力闘争(政権交代)がありました。これに起因する形で、対外政策の強化と、中国の海洋進出の強化がトレンドとなっています。はっきり言えば、中国の指導部の交代と、日本政府による尖閣諸島購入の事案がちょうど重なってしまったということになるのです。
●海軍力の増大に伴い、中国海軍の活動が活発化した
一方、公船とは別に、中国海軍の活動の方はもう少し長いスパンで見る必要があります。
活動は年々活発化していましたが、2008年に東海艦隊が、日本海を経て津軽海峡を通峡し、太平洋側に出て宮古―沖縄間を通過するという「日本周回行動」が確認されて以降、こういった艦隊の活動が年々活発化しています。これは、海の上に浮かぶ水上艦艇の方の動きです。
では、海の中に潜る潜水艦の活動はどうか。2003年11月に、大隅海峡においてミン級潜水艦という非常に小さな潜水艦の活動が視認されたのを皮切りに、2004年には、原子力潜水艦が日本の領海を侵犯いたしました。このとき、海上自衛隊には海上警備行動が発令されました。また、2006年10月には、沖縄の沖に所在していた米国海軍の空母キティホークに、中国の国産のソン級潜水艦が接近し、突然浮上するといった事案が発生しています。
こういった中国海軍の活動の活発化は、中国の海軍力の増大に伴う当然の結果だと私は思っています。その理由は、私の背景で白く塗られている東シナ海や黄海を見ていただくと分かります。非常に浅くて狭いため、艦隊が大きくなってくると、大規模な艦隊訓練には極めて不向きな海域です。しかし軍隊は、訓練をしなければ強くはなりません。活動の活発化自体は、海軍の増大に伴う当然の結果だと思っています。
ただし問題は、出て行き方が西側のスタンダードではない。あえて申し上げれば洗練されていない点です。「慣習国際法」といったような、西側諸国がこれまでにつくってきたルールとは相容れないような出方をしています。
●西側ルールへの「エンゲージメント」も奏功せず政権交代へ
では、われわれは最初に、このような海軍に対してどのように対応しようとしたのか。これを「エンゲージメント」と言っていますが、当初は中国との交流を通じて、彼らに「大きくなった海軍はいかに振る舞うのか」という、われわれが行ってきたスタンダードを学ばせるエデュケートの方法を模索しました。米国、次いで海上自衛隊がこれに当たりました。
海上自衛隊は、艦艇による交流も始めました。私自身も海幕の情報部長だった頃、海上幕僚長等の命を受けていろいろなことをさせていただきました。一番象徴的だったのは、中国の初任士官を乗せた練習艦との交流でした。われわれの幹部候補生学校のある江田島へ彼らを入港させ、一泊二日の交歓行事を行ったのです。当時(2009年)は中国の政権交代前であり、こうしたことも可能でした。
今のように海洋法執行機関と海軍とが連携するような状態はこの時点では確認されず、どちらかというとむしろ疎遠な感じであったと認識しています。中国側が出した情報などから見ると、海洋法執行機関である中国公船と中国海軍の活動の連携は、どうやら2013年頃から強化されている模様です。
わが国も、こうした中国の海洋進出の活発化に対して、海上保安庁が尖閣諸島付近の活動を強化するとともに、海上自衛隊が東シナ海や西太平洋での警戒監視活動を強化して対応しています。
●護衛艦「ゆうだち」が受けたレーダー照射の経緯
日中の海洋の諸力が狭いエリアで対峙する中、2013年...