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海上自衛隊の活躍でソマリア沖の海賊被害は年々減少

安全保障最前線(1)戦略の視点で見るソマリア沖海賊対処活動

吉田正紀
元海上自衛隊佐世保地方総監
情報・テキスト
ソマリア沖の海賊行為に対する海上自衛隊の対処活動の成果は国際的にも評価が高く、近年海賊行為件数は減少している。それでも、海賊を根絶できないのはなぜなのか? 日本と世界の安全保障を見守り続けてきた吉田正紀氏が、平和と安定のための戦略の在り方を解説する。
時間:14:13
収録日:2014/08/01
追加日:2015/02/14
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≪全文≫

●2008年、ソマリア沖海賊対処活動開始への経緯


 国家安全保障戦略におきましては、わが国の国家安全保障上の課題を、大きくグローバルなものとアジア太平洋地域の二つに分け列挙していますが、このうち、現在海上自衛隊が実際に部隊を展開、もしくは、展開準備をして対応しているもの、言い換えれば、現場というものが存在しているものについて、では、現場ではどのような活動が行なわれているのか、そして、それは今お話ししてきたような戦略的なアプローチという視点で見た場合、どこに課題が存在しているかといった視点も交えつつ、お話をさせていただきます。

 まずは、アデン湾ソマリア沖での海賊対処について申し上げます。この問題は、国家安全保障戦略上はグローバルな課題で、国際公共財に対するリスクの中で、開かれて安定した海洋に対するリスクと位置付けられています。

 まず、活動開始までの簡単な経緯ですが、2008年頃から、ソマリア沖アデン湾では海賊による被害、脅威が顕在化しました。こうした海賊の発生件数の増加を受け、国連安全保障理事会では多くの決議が採択されたわけですが、なかなかそうはいってもこれにすぐ賛同してくる国も少ない、といった状況でした。そのような中で、わが国を含む19カ国が共同提案国となり、2008年10月7日、全会一致で決議第1838号が採択されました。


●6年目に入った、自衛隊の派遣海賊対処行動


 これは、関係諸国に対し、特に海軍艦艇、軍用機を展開させることにより、ソマリア沖公海上における海賊行為の対処に積極的に参加するよう要請したものでした。わが国は同決議に基づき、もちろん国内的にはいろいろな議論があったのですが、2009年3月13日、海賊対処法案を閣議決定し、また、本法案が成立するまでの当面の応急措置として、自衛隊法に基づく海上警備行動により、先行的に自衛隊が派遣されることとなりました。

 2009年6月19日に海賊対処法案が可決後は、同法に基づく活動に変更され、現在その活動は6年目に入っています。2014年8月1日時点では18次隊がソマリアで活動中であり、今、ソマリアに向かっています19次隊と間もなく交代予定であります。

 現在の活動状況でありますが、護衛艦を2隻、これに哨戒(しょうかい)ヘリコプターを3機から4機、人的には400名からなる洋上部隊。そして、ジプチに拠点を置き、P-3C哨戒機2機を中心とし、人員約200名からなる航空部隊で派遣海賊対処行動部隊を構成しています。これが、他の海軍と共同しつつ、長さ約1000キロ―東京から九州に行くぐらいの海域ですか―で、洋上部隊は船団を組んで守るという直接的な護衛(マンツーマンディフェンス)と他国海軍とエリアを分担して守る間接護衛方式(ゾーンディフェンス)を併用しながら、さらに上空には、エリア全体をカバーする広域監視を行う航空部隊と共同して、この海域を航行する商船を海賊の被害から守っています。


●ソマリア沖海賊の特徴


 さて、ソマリアの海賊とはどのようなものなのだろう、と皆さんは想像されるかと思います。ジョニー・デップが出てくる映画のようなかっこいいものでもありませんし、もちろん漫画の『ワンピース』のように正義の味方でもありません。実は、ソマリア・アデン湾における海賊というのは、漁民が漁船を使って海賊行為を実施しているのです。

 「え? なぜ漁民が漁船を使っているのにわざわざ軍艦が対応するのか?」と思われるかもしれませんが、実は彼らはソマリアの内乱や、いろいろな経緯を経て、彼ら自身が自動小銃やロケット砲で重武装化し、GPSや衛星電話等高度な機器を装備して、組織化ネットワーク化した上で船舶を乗っ取り、身代金を要求するという行為を繰り返しています。

 彼らの襲撃の仕方は、簡単に言いますと、最後に海賊としてやるのはスキフという非常に小さな船を使います。これに5、6人の人間とエンジンは2機。残念なことに、このエンジンはほとんどがヤマハのもので高性能だそうです。ただし、漁具を積んでいるのではなくて、はしごを積んであるそうです。獲物を見つけるとこのスキフに乗って母船から出て高速で近づき、重装備の武器で威嚇し停船させ、自分たちの持ってきたはしごをかけて乗っ取って、まずブリッジを制圧して、自分たちのソマリアの根拠地に連れて行く。ブリッジに上ってから制圧まで約15分という速さでやっています。


●海上自衛隊が海賊被害の減少に大きく貢献


 こういった海賊に対して、当初は非常に被害が多かったのですが、最近は年々海賊の被害は減少してきています。実は、このジプチの海賊対処の部隊を、安倍総理が昨年の9月に訪問してくださいまして、このような訓示をいただきました。

 2009年3月の任務開始以...
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