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安倍政権下で国家安全保障戦略に56年ぶりに変化が!

わが国の安全保障の構造(1)その源流から下流まで

吉田正紀
元海上自衛隊佐世保地方総監/一般社団法人日本戦略研究フォーラム政策提言委員
情報・テキスト
前・海上自衛隊佐世保地方総監である吉田正紀氏は、日本の安全保障の構造を川の流れに例え、今、その川の流れは長らく変化し得なかった源流から全体に向けて、大きく変容しつつあると言う。39年間、自衛隊という下流の現場から日本の平和維持を担ってきた吉田氏が、日本の安全保障のこれまでとこれからを語る。(前編)
時間:14:48
収録日:2014/08/01
追加日:2014/12/01
カテゴリー:
≪全文≫

●安全保障・防衛の構造を、川の流れに例えて考える


 皆さま、こんにちは。このたび「テンミニッツTV」の講師を務めることになった、吉田正紀でございます。私は今まで39年間、海上自衛官として勤務し、最後の配置として、今、わが国の安全保障上最もホットな東シナ海、南西諸島を含むエリアを担当する海上自衛隊佐世保地方総監を、2年間務めさせていただきました。

 今回、一自衛官としての経歴しか持たない私が、この「テンミニッツTV」の講師をお引き受けするに至った理由は、一言で言えば、現場の声を一人でも多くの方々に知ってもらいたいということであります。

 では、私の言う現場とは、一体何を指すのでしょうか。かつて私は、私の尊敬する先輩から、わが国の安全保障や防衛に関する構造について、川の流れに例えて教えていただいたことがあります。

 川には、源流、それから、上流、中流、下流とありますが、わが国の安全保障の構造の中で源流にあたるものが、言うまでもなく日本国憲法であります。その他にも、憲法から派生したと思われる専守防衛、武器輸出三原則、非核三原則、国防の基本方針、さらに日米安保条約といった、わが国の安全保障の根幹に関わるものが源流に含まれます。

 上流には、過去一定のスパン、これは長いときは20年近く、最近では5年ぐらいのスパンで見直しがなされてきました防衛計画の大綱、日米防衛協力の指針、自衛隊法、こういったものが含まれると思います。

 中流には、上流を受ける形で、それぞれの自衛隊の防衛力整備の計画や、中長期の人事施策などが含まれます。

 そして、最後の下流には、全ての流れを受けて、実際の自衛隊の部隊運用、作戦、すなわち大部分の自衛官が携わる日々の活動や教育訓練、研究開発、装備の戦力化等が含まれるというものであります。


●全ての流れは「現実」という海にぶつかる-これが安全保障の現場


 従って、私が現場と申しますのは、主として下流のことであります。この現場では、わが国から遠く離れたソマリア沖・アデン湾での海賊対処活動や、スーダンでのPKOをはじめとする海外での任務や、わが国周辺、空海域での1年365日24時間、間断ない警戒監視活動といった実任務が、今この瞬間も行われております。また、同盟国である米国をはじめとする諸外国との訓練も、頻繁に行われています。

 すなわち、これは源流を発した流れが、上流、中流を経て下流に至り、海と交わるごとく、源流であるわが国特有の安全保障上の原理・原則は、下流、すなわち現場において、国際社会の原理・原則や現実という海とぶつかるということを示しております。

 最近、集団的自衛権の解釈をめぐる議論や、新たな日米防衛協力の指針といった、源流や上流の話ばかりがメディア等でなされているようでありますが、私は、下流すなわち現場では今、何が起きていて、そして、これから何が起きようとしているか、こういったことを皆さまに伝えていきたいと思います。


●安全保障の構造の全体像-変化の激しい下流とほとんど変化のない源流


 それでは、まず、現在の川の流れの全体像を把握しておきたいと思います。私の39年間の自衛官人生の中で、下流からはるか臨む川の姿というものは、国際情勢という海と交わる下流においては、年々流れの変化のスパンが短くなり、その度合が激しくなるのに対し、中流、上流、こういったところにおいては、この変化には5年から10年を要し、源流に至りましては、半世紀にわたりその流れを変えないというものでした。すなわち、私が自衛隊に入隊して39年間、源流というものがほとんどその姿を変えてこないというものでありました。

 しかしながら、私自身、最後の配置の佐世保地方総監として海上防衛の最前線の現場で日々指揮を執りながら、わが国の安全保障政策を大きく変える、すなわち、そろそろ源流に手を付けなければならない時期に来ていると、そういう思いを強く持っておりました。


●源流の変化の予兆を感じた安倍総理の所信表明演説


 そうした中で、昨年秋の第185回臨時国会の安倍総理の外交安全保障に関する所信表明演説を聞いたとき、私は実は大きな変化の予兆を感じました。私が着目した部分は、これから述べる部分であります。読ませていただきます。

 「世界の平和と安定に積極的な責任を果たすことなくして、もはやわが国の平和を守ることはできません。これは、私たち自身の問題です。

 戦後68年にわたる平和国家としての歩みに、私たちは胸を張るべきです。しかし、その平和を将来も守り抜いていくために、私たちは、今、行動を起こさねばなりません。

 石垣島で漁船を守る海上保安官、宮古島で南西の空をにらみ、(吉田氏注:これは航空自衛隊のレーダーサイトだと思います)ジブチで灼熱のもと海賊対処行動...
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