●「中国経済、失速?」を実質成長率で見極めるには
本日は、「日中“政涼経温”の時代」というタイトルで、今後の中国市場のチャンスとリスクにどう向き合うかについてお話をさせていただきます。よろしくお願いいたします。
まず最初に中国経済の現状です。「中国経済は失速しているのではないか」と、ちまたでは言われていますが、実は失速しているのではなく安定を保持しているという話から入りたいと思います。
最初のグラフをご覧ください。GDPの成長率は、足元2014年第3クオーターの数字が7.3パーセントということで、緩やかな低下傾向を続けています。これは、2009年第1クオーターの6.6パーセント以来の低い数字にもなっています。
この数字を見て「中国経済は失速しつつあるのではないか」と心配している人たちが多いのですが、実はこのグラフを見るときには、二つに分けていただく必要があります。2012年春の第1クオーターあたりに縦線を1本入れ、その左側と右側で分けて考えることが必要なのです。
●中国史上空前絶後の高度成長とリーマンショック
なぜならば2003年以降2012年春ごろまでの10年間は、胡錦濤・温家宝政権の下で、中国の高度成長がピークの時代でした。そして、2012年の夏ぐらいから、実質的には習近平政権の政策の時代に入ってきていると見ていただいて構わないと思います。
2003年から2007年の5年間は、毎年の成長率がずっと連続して10パーセントを超え続けた、中国の高度成長の絶頂期です。日本で言えば昭和40年代「いざなぎ景気」のような、中国にとっても二度と来ない、高度成長最高潮の時代でした。
その後、2007年後半からは景気が過熱に陥ってしまい、これを収めるために2007年10月から厳しい引き締め政策が開始されました。その結果、2008年に入ると景気は急速に成長率を鈍化させ、シュリンク(縮小)していくわけです。
ようやく過熱感が収まったかと思った矢先の2008年9月、リーマンショックによって世界全体が金融財政を中心に危機的な状況に陥ります。それとともに再び中国経済はさらに下落して、2009年第1クオーターには6.6パーセントまで落ちてしまいます。
●「超」回復による自信。激震から安定へ向かう中国経済
大慌てした中国政府は、普通にはあり得ないほどの「超金融緩和」と「超財政刺激策」をもって、たった1年間で2010年の第1クオーターにおける12.1パーセントに至るまでの、目覚ましい勢いの景気刺激による回復を実現しました。この1年間の景気回復は、当時の世界経済の中では非常に特別な動きでした。アメリカもヨーロッパも日本も世界中で景気停滞が長引く中、唯一中国だけが、とんでもない早さでもとの2桁の成長を回復してしまいます。この1年間の経験によって、中国は非常に大きな自信をつけました。
ところが、2010年の第1クオーターに12パーセントに達してしまうと、再び景気が過熱に陥りましたので、中国政府は、今度は緩やかな引き締め政策を始めて、成長率を徐々に下げていき、2012年にようやく8パーセントから7パーセント台後半に入ります。ここで景気の過熱感がようやく収まり、景気経済が安定を取り戻しました。
以上が、この2003年から2012年までのざっとした経緯です。この10年間、いわばジェットコースターのような非常に激しい振幅を繰り返していたのが、中国経済の特徴です。
●安定期に向かう現在。雇用と物価の安定に注目
2012年の春以降、これが安定の時代に入ります。中国経済は、今言った超高速成長から中高速成長へ、そして今後2020年代に安定成長期を迎えるべく徐々に移行しています。現在は、高度成長期の最終段階に入りつつあるところです。まだしばらく高度成長期は続きますが、緩やかな低下局面に入ってきているのが今の中国経済の状況です。
したがって、今これが急に失速するわけではありません。経済政策の効果が非常にうまく安定的に現れ、ようやく過熱もなくなって、いい推移をしているということです。
中国経済のみならず、世界中の国家経済は、雇用と物価が安定していれば安心できる状態です。今の中国経済では、まさに雇用と物価の両方が安定していますので、経済成長率は緩やかに低下する局面にあっても、政府は安心していられる状況にあります。
これについては、また後ほど、少し具体的な数値をもってご説明を差し上げましょう。