●1992年の市場経済化以降、一気に景気過熱へ向かう
経済の安定とは、雇用と物価の両方の安定だと申しましたけれども、そのもう一つの要素である中国の物価について、最後にご説明をしたいと思います。
これは1990年から2014年までの非常に長い期間の中国における、消費者物価の前年比の上昇率推移を示したグラフです。中国は、1992年以降市場化を進めました。それ以前は統制価格の時代で、国家が全ての価格を決めていましたので、物価はあまり意味を持たない時代でしたが、1992年以降、中国はその統制経済から市場経済に移行しました。
市場経済に移行するとともに、私有財産もある程度認められるようになってきたので、皆が労働意欲を急速に高めて、景気はものすごい勢いで良くなった結果、1990年代の半ばに、その景気の急拡大を背景としてインフレになってしまいました。
●インフレ収束後に多難の時代を経て、2003年以降高度成長時代へ
この景気過熱を朱鎔基国務院総理(首相)の下で、一生懸命収めたのが90年代の後半です。
その景気過熱が大体収まった頃の1997年に、今度はアジア通貨危機が起こります。アジア通貨危機がやっと鎮静化したなと思ったら、2000年代に入りますとすぐに、不良債権問題がまた表面化してしまうということで、90年代の後半から2000年代の前半までは、非常に苦しい時代を中国は続けて、この頃はデフレ気味な推移をしています。
そして、それがようやく江沢民(主席)・朱鎔基(首相)政権の末期に、アジア通貨危機や、不良債権問題、金融機関の財務体質の問題も克服し、ようやく次の政権にバトンタッチをした2003年ごろから、この構造改革の成果が現れてきます。それが、前に申しました中国の高度成長の絶頂期になるわけです。
●消費者物価5パーセント超はインフレの証
絶頂期に入りますと、このグラフを見ていただきたいのですが、2004年、それから2007~2008年、そして2011年と、3回も消費者物価が5パーセントを超えているというのが見えてくると思います。
中国では、5パーセントを上回る消費者物価というのはインフレです。この5パーセントを1回でも超えれば、これは政策としては失敗にカウントされてしまうにもかかわらず、 胡錦濤(主席)・温家宝(首相)政権の下では、10年の間に3回もその失敗を繰り返したという、かなり成績の悪いマクロ経済政策だったと言うことができると思います。
●2012年春以降、中国経済は雇用と物価の安定でいい形を保持
その後、前に申しました2012年の春以降は、中国は経済の安定を取り戻しています。このグラフを見てお分かりのように、1992年以降の市場経済下、つまり市場経済移行後の中国の経済体制下で、初めて2パーセントから3パーセントの非常に安定した物価の推移を今のところたどっているというのが現状であります。
その意味で、雇用が安定しているのに加えまして、物価も安定した推移をたどっているということで、足元の中国経済は非常にいい恰好で安定を保持していると言って良いと思います。
これだけ雇用と物価が安定していますと、万一、何かの拍子にダウンサイドリスク(市場経済における損失するリスク)が表面化して景気が悪くなりそうな場合でも、金融政策や財政政策で下支えをしても物価を押し上げてしまう心配がそれほどありません。物価が押し上げられてインフレになる心配がありませんので、政策の発動余地がまだまだあるのですね。
そういう意味では、しばらくは中国経済は安泰な状態が続いていると見て良いと思います。
以上が、まず足元の中国経済の現状です。