印象派の解体と最後の印象派展
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ドガ《エトワール》…新技法を追求した印象派の代表作品
印象派の解体と最後の印象派展(3)観察と探究のドガ
安井裕雄(三菱一号館美術館 上席学芸員)
印象派展からその中心だった風景画家たちが退いていく中で、リーダーシップを取った画家の一人がドガだった。それまでは主題になりづらかった卑近な瞬間を切り取るその卓越した観察眼や、油彩が主流の印象派においてパステル画や蝋の彫刻を出品したドガ。そうした彼の独自の手法の探究を解説する。(全5話中第3話)
時間:10分11秒
収録日:2023年12月28日
追加日:2026年3月14日
カテゴリー:
≪全文≫

●卓越していたドガの観察眼


 この間、印象派の画家たちのうちの主要な画家たちが、だんだんと印象派展から離脱していく中で、中心となっていた画家はピサロとドガでした。特にドガは印象派の中にあって、その独自の表現が際立っていました。印象派のグループの中には、現代ではそれほど名前が知られていない何人もの画家たちが、ドガの影響を受けてドガ風の作品を出品して、ドガの仲間たちと目されていました。

 その中でも、一番有名でかつ優れていたのは、アメリカ人の女性画家である、あのメアリー・カサットだと思います。

 ドガは最初、歴史的な事物を描く画家としてスタートしましたけれど、競馬あるいはこのような踊り子たちといった同時代の風俗、風物、人物の表現にだんだんと集中していくようになります。競馬、踊り子、湯浴みをする女性、これを私はドガの3つの大きな主題だと思っていますけれど、競馬などは第1回の印象派展でももう出品されていますし、このバレエのレッスンを描いた踊り子たちの姿(の作品)ですが1回展、2回展ともに出品されている。比較的後の時代になってドガが描くようになったのが、この金たらいを使って(湯浴みをして)いる作品です。

 昔は日本の家庭でもけっこうよく見たものですが、最近ではもうほとんど見なくなってしまいました。日本のように水環境の良くないフランスでは、長い間、部屋の中にバスタブがない家庭も多かったのです。

 ホテルもほとんどバスタブなしのホテルばかりでしたし、私がフランスを訪れたときに泊まるホテルはシャワー共同です。お手洗いも共同です。シャワーがお部屋の中にないところも長い間、本当にごく最近までフランスで普通だったと私は思っています。その中でどうやって身体をきれいにするのかというと、少ない水を使って効果的に身体を洗うためには、こういった金たらいを使って身体を洗うということしか方法がなかったのです。

 ドガの卓越したところは、そういったまったく絵にならないような主題ですが、その中での人物の動作を一瞬にして切り取ってしまう。同時代の画家たちが何も考えもしなかったような視角、視点の角度から――これは浮世絵の影響とも...

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