中井久夫氏のいう「執着気質」は歴史的にどう作られてきたのか。執着気質はうつ病になりやすい性格を指すが、よく「真面目すぎて頑張ってしまう人」がうつになるといわれる。そういわれるのは日本の特殊性で、二宮尊徳と関係があるのではないかと中井氏は考えた。二宮尊徳は江戸時代の後期、疲弊した農村の立て直しに尽力した人物だが、彼の思想がどのように日本人に浸透していったのか。中国や韓国との相違点を挙げながら解説する。(2025年8月30日開催:早稲田大学Life Redesign College〈LRC〉講座より、全7話中第2話)
※司会者:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●「真面目で頑張ってしまう人がうつになる」といわれるのは日本の特殊性
與那覇 ではいったい中井さんがここで何を言っているかというと、「執着気質」というものが、歴史的にどう作られてきたかを解明している論文になります。この執着気質が何かというと、うつ病になりやすい性格です。私もうつで働けなくなって、結果として勤めていた大学を辞めています。その体験をこの本(『知性は死なない 平成の鬱をこえて 増補版』〈與那覇潤著、文春文庫〉)に書いたりもしています。
日本では「こういう人がうつ病になるのではないか」「うつ病になりやすい性格があるのではないか」と言われて、それを「執着気質」と言ってきました。これは戦前の学説です。1930年代ぐらいから「うつ病にはなりやすい性格があるらしい」と言われてきたのです。
これは、けっこう特殊な学説です。「メンタルの病気をしやすい性格があるのではないか」と考えるのは、特に日本とドイツです。他の国の学者や精神科医は、そういうことをあまり考えない。むしろ日本人とドイツ人だけが「この病気には、きっとなりやすい性格がある」と考えているのです。
さらに、どういう人がうつ病になりやすいのかというと、日本でもひょっとしたら職場に勤めているときにご自身が体験されたり、「同僚にうつ病になって休職した人がいたなあ」みたいなことを覚えている方もいらっしゃるのではないかと思います。
よく、「頑張りすぎる人がうつ病になりやすい」と日本では言ったり、聞いたりしたこともあるのではないかと思います。そうした「頑張りすぎるせいで、うつ病になる」という言い方の元祖が、下田光造という戦前に活躍した精神科医が述べた「執着気質を持っている人が、うつになる」という学説です。
では執着気質とは何かというと、下田さんが言っているのが「確実人として信頼され、模範青年、模範社員、模範軍人」です。「この人は真面目一本で、仕事を任せれば確実にそれをやり遂げる」。そういう理想的な青年、理想的な社員、理想の兵士であり、軍人。こういう人が、うつになりやすいという学説が戦前からあるのです。
ちなみにこれは中井久夫さん曰く、日本でしか言われないようです。ドイツにも「メランコリー型の人がうつになりやすい」という学説はありますが、「メランコリー型」は、あまりいい人格類型とは思われていません...