『孫子』を読む:地形篇
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逆命利君か従命病君か――漢の時代から伝わる重要な戦略論
『孫子』を読む:地形篇(3)逆命利君の教えと絶対的勝利の条件
田口佳史(東洋思想研究家)
「逆命利君」という言葉がある。漢の時代の学者・劉向が著した中国の古典『説苑』に出てくる言葉で、君主の命令に逆らって利を上げ、それを君主に差し上げる、それを忠ということ。これは戦略論として覚えておくべき非常に重要な教えとして、今でも語り継がれている。そして講義後半では、絶対的勝利の条件として、自軍の状態、敵の状況、地形など5つの要素を挙げ、リーダーとして持つべき部下への配慮とともに解説する。(全3話中第3話)
時間:10分28秒
収録日:2020年10月9日
追加日:2026年4月5日
カテゴリー:
≪全文≫

●「逆命利君」と「従命病君」――漢の時代から伝わる重要な教え


 ここで少し考えたいと思います。君主の命令に逆らっていいのかどうかという、そういう論議がかなりあります。ここに漢の時代の劉向という人が書いた『説苑(ぜいえん)』という書物がありますが、日本でもいろいろなところで応用されており、年号などにも非常に関与している書物です。

 そこに「逆命利君」という言葉が出てきます。これは私の若い頃に非常に流行った言葉で、「逆命利君、謂之忠(之を忠と謂ふ)」というものです。逆命利君とは、命に逆らって、利を君主に差し上げるということです。君主の命令に逆らって、利を上げて、それを君主に上げる。これを忠ということです。

 これに併せて書いてあるのは、「従命病君」です。つまり、君主の命令に逆らわないで、「はい」と言い、もう戦ってはいけないというときにもかかわらず、(例えば)戦略が確立されていない、確立しない、勝つ見込みがないというときに、(君主が)「戦え」と言っているから「戦います」と言うのは、病すなわち弊害を君主に上げることなのです。これを、「諛(ゆ)」といって、おべんちゃらの臣だというのです。

 ですから、そういう意味で、漢の時代からということは、キリスト教世紀の頃から、中国の戦略論には「逆命利君」のほうが重要だということです。やはり、結果がどうなっていくのかが重要だといっていることは、われわれも頭に入れておく必要があります。要するに、本社が何と言おうと、やはり支社長としては、駄目なものは駄目で、やめたほうがいいということを貫けといっているわけです。


●部下への配慮で犯しやすい過ち


 では次、「卒を視ること嬰児の如し、故に之と深谿(しんけい)に赴く可し」です。将軍が兵士を見るときに、自分の子ども、それも嬰児ですから、赤ん坊を見るように愛情深く見るということです。「故に之と深谿」とは、危険を冒して深みまで一緒に行っても大丈夫ですといっているわけです。つまり、ここでは、部下との関係は非常に重要で、これもいっておかなければならないということで、孫子がここでいってくれているわけです。

 反対に、「卒を視ること愛子の如し」は、卒をみることでも、今度は「愛子の如く」といって、愛情がたっぷりすぎて、守ってやるという観点がないのです。だ...

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