西洋文明は、神に基づく明確な「原則」で社会秩序を築いてきた。それに対して、日本は対立を防ぐため「原則を立てないこと」を独自のルールとして維持してきた。「原則」がなかったわけではないが、あまり「原則」を主張すると他の人が困るので、「なるべく原則は立てない」という運用でやってきた。では、そのような日本が、「原則」で動いていく国際社会とどのようにやっていけばいいのだろうか。あるいは「なるべく原則を立てない」日本人的なあり方を、世界に通用するシステムにすることができるのだろうか。第5話では日本の歴史における天皇の役割と日本社会の根本的な特質を解き明かす。(2026年5月16日開催:早稲田大学Life Redesign College〈LRC〉講座より、全6話中第5話)
※司会者:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●天皇の大事な役割――歴史を遡って考えることが大事
―― この辺りはまさに、一番この講義の冒頭のところでお話が出ました、本居宣長の定義とか、橋爪先生が定義してくださった、「日本人は神に支配されたり、真理を営々と追求したりしていくことをそんなに重視しない」という、そこに帰ってくるというところになるのですね。
橋爪 冒頭に日本と天皇のことを申し上げましたけれど、天皇は何をするかよく分からない人で、日本の社会実態と合っているからちょうどいいのですけれど、ときどき大事な役割が出てくる。
「律令制」といって、日本全体をまとめて中国風にする。中国風の建物で、中国風の官僚制で、中国風の服を着て、漢字・漢文を読むというように、(当時)中国化大運動があったわけです。大化の改新から始まって、養老律令、大宝律令などを作ったり、平安京は中国風だったりと、いろいろしているでしょう。(しかし)これらをあまり真面目にやるつもりがなかったのです。
なぜ中国化しようと思ったかというと、中国が日本に攻めてくると思ったからです。中国は強力な陸海軍を持っていて、それが攻めてきたら大変だから、中央政府を作って、軍隊を作って、税金を集めて、大勢兵士を雇う。そういうことをしないといけないから、それで律令制にしたと思うのですけれど、しばらく様子を見ていたら、中国が攻めてくる様子がない。
それなら律令制など作るだけ無駄だ。「公地公民」といって税金も決めたのに、あれはなかったことにして、領地は全て貴族がネコババして、(つまり)自分の私有地にして荘園にしてしまった。だから、税金なしです。そして「不輸不入権」といって、「荘園には国家権力は入ってくるな」ということにしてしまった。官僚は試験がなくて血縁で世襲するといったから、藤原氏とか貴族だらけになってしまった。だから、律令制と全然関係ないですね。
それから軍隊も解散したから、近衛兵以外はなくなってしまったのですけれど、物騒でしょうがない。そこで、荘園を守るために貴族はガードマンを雇った。これが侍ですね。政府の職員ではないのに、勝手に雇われている警備会社のようなものです。そしたら、警備会社がだんだん地主になって、せっかく貴族がネコババした土地が今度は武士にネコババされてしまった。でも(貴族としては)...