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友にして敵なのか、敵にして友なのか―中東の複雑性

中東のパラダイムシフト―「敵の敵は友」か?

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
中東情勢に詳しい歴史学者・山内昌之氏は、「敵の敵は友」といった単純な構図では到底中東の複雑性は語れないと言う。このような混迷の中、中東ではパワーシフト、イデオロギーシフトが起きている。ソ連解体の構図、ハンチントンの文明内衝突などを例に、歴史を自在にまたぐ山内氏ならではの視点で、中東のパラダイムシフトを考える。(シリーズ講話第1話目)
時間:18:08
収録日:2015/03/11
追加日:2015/03/21
カテゴリー:
≪全文≫

●「敵の敵は友」と言いきれない中東の複雑性


 皆さん、こんにちは。本日は、21世紀の中東をどう捉えたらいいのか、あるいは、中東でいま起きている大きな権力の移動、ひいては、どう捉えるかというパラダイムやパワーのシフトなどについてお話ししてみたいと思います。

 よく中東においては、「敵の敵は友」という言葉が使われます。しかし、私は、これは中東情勢や権力関係を著しく単純化しているものだと思います。実際の中東はもう少し複雑であり、私はいつも「敵の敵は友か、さもなくば敵か」と、このように言うべきではないかと思っていました。しかし、最近のIS(イスラム国)をめぐる諸国や諸勢力の相互関係を見ると、これでもまだなかなか中東の複雑さを言い表したことにはなりません。

 特に、最近のオバマ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相との関係、あるいは、アメリカ政府が進めているイランとの核開発に関わる交渉や、これをめぐるアメリカ・イラン・イスラエルの三国間の関係を見ましても、「敵の敵は友か、さもなくば敵か」と表現しても、まだ単純であるかのように思えてきます。むしろ、その後に私は次のような言葉を付け加えてみたいと思うのです。「さもなくば友にして敵なのか、敵にして友なのか」ということです。すなわち、有名な言葉はこう置き換えられるべきなのではないかと、私は最近よく思うようになりました。「敵の敵は友か、それとも敵か、さもなくば友にして敵なのか」と。恐らく、中東情勢はこのような形ですこぶる混迷と複雑さを増しているかと思われます。


●中東のイデオロギーシフトとソ連崩壊過程の比較


 現在起きているのは、前回お話しする機会もあった大きなパワーシフトと、それから、今日お話ししていくことになるイデオロギーレベルのシフトが大きいかと思います。そこで最初に触れるべきことは、中東秩序の古いシステムが崩壊しつつあるということが第一点です。このことを、あえて歴史的に理解しやすく説明するとすれば、1991年のソ連の崩壊と比較することもできるかと思われます。それから、その後の冷戦終結とソ連の解体後に新しく出現した東欧や中欧における大きな政治の構図なども念頭に置くと、よく分かる点もあるかと思います。

 例えば、チェコスロバキアがチェコとスロバキアに分離していった平和的な分離モデルもありました。あるいは、ラトビア...
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