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既存のアラブ国家解体と新勢力の台頭

中東のパラダイムシフト―アラブ国家解体と新勢力台頭

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
歴史学者・山内昌之氏は、中東は大きなパラダイムシフトを起こしつつ、未だその真空を埋めるに足る権力バランスに欠けており、これが、アラブに破綻国家現象を起こしていると語る。既存のアラブ国家の解体と衝突し合う新勢力、そこから今、三つの新国家が再編成されようとしている。混乱する中東におけるパラダイムシフトの意味を考える。(シリーズ講話第2話目)
時間:14:58
収録日:2015/03/11
追加日:2015/03/22
カテゴリー:
≪全文≫

●アラブに見られる破綻国家現象


 皆さん、こんにちは。今日は前回に引き続き、中東における権力の真空、あるいは、新しい権力を目指した市民はどのような方向に進んでいったのかというような問題について、少し考えてみたいと思います。 

 あえて申しますと、いま起きている現象は、これまで権威主義的な支配や独裁者による専制的な支配を受けてきたアラブの国民国家が、破綻国家(フェイルド・ステイト)に変化しているのではないかということです。どのアラブのリーダーも日本の研究者も、なかなかそうしたことをはっきり直視しようとしません。政府、外務省や各企業には、いろいろな立場や利益があるわけで、当然のことながらこのような見方をするのはなかなかに難しいのですが、イラクやシリア、リビア、あるいは、イエメンといった国は、国家としての統一性(インテグリティ)や統合性(ユニティ)というものを失うことになったということは、以前にも触れました。

 もう少しその状態を定義するとすれば、これは一種の破綻国家なのです。つまり、ソマリランドやソマリアというアフリカの角にある国、これは、もともとアラブ連盟にも加入していたり、アラビア語に近い言葉を話したりする人もいたのですが、こうしたソマリア自体が、もはや一つの統一体を成していない。アフリカの西海岸においても、そうした状態の国や地域が出てきつつある。これらは、いずれも国際政治で破綻国家と呼ばれる存在ですが、アラブの重要な石油資源国、あるいは、戦略的な要所を占める重要な国々の中から、この破綻国家現象が出てきているということは、誠に遺憾なことであります。


●破綻現象二つの特色-アラブの解体と新勢力の登場


 これは、アラブ国民国家の没落と、それに代わる地政学的な真空を完全に埋め切れるような権力のバランスがまだ生まれてきていないということを意味しており、ここに21世紀の中東が直面し、われわれが大変憂慮するに堪えない点があるのです。

 つまり、特色付けようとすれば二つのことが挙げられます。まず第一に、簡単に言えば、既存のアラブ国家がその枠組みや国境も含め、解体しつつあるということ。第二番目は、その廃墟の上に新しい国家を目指す新しい勢力が登場してきたということです。しかも、その勢力は互いに衝突し合っているのです。それは他でもありません。一つはイスラム国(I...
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