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デュアルユース・テクノロジーの捉え方が日米で真逆

国家戦略コア技術~技術革新と国家(1)未来の技術革新に投資せよ

白石隆
公立大学法人熊本県立大学 理事長
情報・テキスト
1974年時点のARPANETの構成
政策研究大学院大学(GRIPS)学長・白石隆氏は、今後10~15年で起こる急激な技術革新が安全保障にも大きな影響を及ぼすだろうと言う。そのためには、軍用技術の民生転用も視野に入れた大規模な投資が必要であり、政府がリーダーシップを取らなくてはならない。これからの「国家戦略コア技術」について提言する白石氏が、その意図と背景を語る。(前編)
時間:08:25
収録日:2015/05/19
追加日:2015/07/09
≪全文≫

●急速な技術革新が変える安全保障のあり方


── それでは国家戦略コア技術についてお伺いしてもいいでしょうか。

白石 実はついこの間、読売新聞に「国家戦略コア技術」について少し寄稿しました(2015年4月12日読売新聞「地球を読む~科学技術戦略 基幹領域 国が開発主導」)。そこでは、もう少し議論した上で基本計画に書き込んでいった方がいいと提言しています。それには、大きく申しますと二つほど理由があると思います。

 一つは、すでに皆さんよく言われていることですが、すごい速度で技術が進んでいることです。それも情報通信技術だけでなく、ナノテクノロジーや、私が非常に関心を持っているブレーンマシーンインターフェイス、あるいはロボティックスなど、そういう分野がどんどん進んでいます。おそらく10年か15年すると、専門ではないですが、それらがわれわれの社会経済、あるいは安全保障の基盤そのものを大きく変えていくという感覚を非常に強く持つようになっていると思います。

 そういうものについて、民間企業の投資に任せているだけではおそらく対応できないだろうということです。つまり、利益とは全く異なり、お金にはならないが安全保障上極めて重要であるという、広い意味での安全保障上の理由で、国として、ある領域には大規模な投資をしないと、やはり駄目なのではないかと思います。

 そのとき、すぐに議論されるのは、どういう分野にお金を投資するのかということですが、それは分かりません。将来どういう技術が重要になるのか、誰も分からないからです。私自身が申し上げているのは、せっかく国立研究開発法人という新しい法人ができ、その理事長には少なくとも理論的には相当大きな権限が付与されるわけですから、その理事長と理事長を支える人たちが、どういう分野にどのくらい投資するかということを考えればいいということです。その方法で4、5年ほど進めてモノにならなかったら、その人たちが責任を取ればいいのではないかというのが、私の一つの考えです。

 それを基本計画としてやるのではなく、この部分は大事だからちゃんとお金をつけます、という一種の意思表明、あるいは政治的意思を明らかにすることは、非常に重要だろうと思います。それがある意味では一つの信号になり、民間企業や大学の研究者なども、そこで何か技術的なブレークスルーがあれば、それが何らかの形で自分たちの研究やビジネスにもプラスになっていくだろうと考えるはずです。そういった一種のアナウンス効果、そして実際に国としてやらなければならない投資、これらをきっちりと考えることが、提言をした理由の一つなのです。


●日米で真逆なデュアルユース・テクノロジーの捉え方


白石 それからもう一つは、「デュアルユース・テクノロジー」ということです。あの時にもかなり書いたのですが、日本ではデュアルユース・テクノロジーというとすぐに軍用ということになります。通常であれば非常にバランスの取れている日本経済新聞などでも、デュアルユース・テクノロジーというと、途端に軍用技術という前提で議論してしまいます。

 実は、これはアメリカとは全く逆なのです。アメリカの場合は、もともと軍用のために開発された技術を、むしろ民間に転用するということです。例えば、クリントン政権時代の国防長官だったウィリアム・ペリーという人が回顧録の中で言っていることですが、彼は今のインターネットの基になっているアーパネット(ARPANET)やGPSに、1970年代から投資を始めているのですね。その投資があったから、その技術は民生になりました。ですから、その意味で言うと、デュアルユース・テクノロジーは軍用から民生へという連想が強く働きます。むしろスピンオン(民生技術の軍事転用)の方もあるのですが、そちらの方は一般的にはあまり議論されません。

 日本の議論は全く逆になっています。その結果、政府も研究者もそこに対して政治的な面で非常に用心深くなっており、気がついてみれば、ホットポテト(ババ抜きのババという意味)なので触らないようにするということになるのです。たぶんこれは、日本の科学技術の政策から見ると、長期的には危険なことです。

 技術はどっちにでも使えるわけですよね。そういうところで自己制御して、ある部分をやらないということになると、結局その「ある部分」を他の国の研究者に譲ってしまうことになります。それだけですでに、ハンディキャップをかけていることになり、それはあまり望ましくないことです。この二つのことを、読売新聞では、何となく、ふわっとした感じで言おうとしたということです。


●クリントン政権のダイナミックな科学技術政策


── おっしゃる通りですよね。インターネットの技術を軍用技術で開発して、そ...
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