書物で学ぶギリシャ危機
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ジェームズ・リカーズ「ドル消滅」で考えるギリシャ危機
書物で学ぶギリシャ危機(3)リカーズと有馬龍夫
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
ギリシャ危機を考える上で示唆的な書物として、歴史家の山内昌之氏が前回選んだのは、エマニュエル・トッドの『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』だった。今回は、それとは異なる見方で、全米ベストセラーとなったジェームズ・リカーズの『ドル消滅』を取り上げる。さらに、ドイツ統一から欧州共同体の設立を見届けた元ドイツ大使有馬龍夫氏の著書『対欧米外交の追憶 上下』を紹介することで、ギリシャ危機に新たな活路を見出すためのシリーズを締めくくる。(全3話中第3話目)
時間:12分29秒
収録日:2015年7月16日
追加日:2015年8月17日
カテゴリー:
≪全文≫

●トッドと逆の立場を取るリカーズの『ドル消滅』


 皆さん、こんにちは。前回のエマニュエル・トッドの議論とはまた異なる見方で、今のギリシャ危機を考えていく手がかりになる書物を、いくつか紹介してみたいと思います。

 朝日新聞出版から2015年6月に翻訳が出た、ジェームズ・リカーズの『ドル消滅』という書物があります。この書物は多くの点でエマニュエル・トッドと反対の立場を採っています。

 ジェームズ・リカーズは、ギリシャならドラクマ、フランスならフランといった個別通貨に戻り、輸出競争力を高めるために貨幣の平価切り下げを実行すべきだという問題解決策に対して、非常に消極的です。

 個別通貨の切り下げは、ヨーロッパをはじめ世界の国々がこの間に採ってきた経済政策です。しかし、こうした政策こそが貯蓄者や小企業の経営者を犠牲にし、国家が自由競争を承認する方法である。リカーズの大変手厳しい言葉を借りますと、「(国家による)盗みに他ならない」ということになるのです。

 つまりリカーズは、ユーロというつくられた共通通貨と各地(現在ならばギリシア)とが補い合うような点に、EU各国ひいてはEUの将来があると主張しているわけです。


●「さらなるドイツ化」と南ヨーロッパの労働事情


 ドイツのアンゲラ・メルケル首相が言った、「さらなるヨーロッパ統合」という有名なスローガンがあります。これに対して、「最近見えてきたのは、さらなるヨーロッパ統合ではなく、さらなるドイツ化、ドイツへの統合ではないか」という説が出てきています。

 ジェームズ・リカーズも、先のスローガンは「さらなるドイツ化を目指す」言葉ではないかと指摘しながらも、ギリシャやスペインのような国においては、単位労働のコスト引き下げを含む効果的な労働力の実現がなかなか難しいことも認めています。

 つまりリカーズは、ユーロ導入による名目賃金の引き下げによって内的調整を図るのは簡単ではないことを冷静に見極めているわけです。例えばギリシャをはじめとする南ヨーロッパ、イタリアやスペインのような国々では、そもそも一度も就職を経験していない若者たちが増えています。

 ちょうど本日(2015年7月16日)、ギリシャに対する金融措置支援に関する諸条件について、ヨーロッパが法制化を要求しました。ギリシャ政府がそれを認めたところ、アテネで...

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