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DATE/ 2021.07.03

日本人が英語ができない理由

 明治維新以降英語教育の必要性が重要視されてきた日本では、義務教育でも英語教育が必須となり、現在社会人となっている多くの人が少なくとも中学校で3年間、高等学校や大学等に進学した人や自己で関心を深めた人たちは、それ以上の多くの歳月を英語学習に費やしてきました。また、現代日本社会では、日常における英語文化の影響も少なくありません。

 それにもかかわらず、一般的に日本人は英語ができないとされています。今回は、日本人が英語ができない理由について、考察してみたいと思います。

日本人が英語ができない理由・3点

1)日本では適切な英語教育がなされていない

 グローバル化を重要政策としてきた近現代の日本において、グローバル社会の共通語ともいえる英語ができる日本人を教育することは最重要課題の一つでした。そのため、冒頭でも触れたように重要政策の一環として莫大な予算を使いながら、英語教育がなされてきました。

 しかしながら、日本の英語教育は成功どころか一定以上の成果を上げているとも言いがたい状況です。

 日本語と英語の言語的な違いを無視したメソッドの横行、正しいフィードバックのできる英語教師の圧倒的な不足、いたずらに低年齢化を強いる教育界、実用に耐えられない受験英語の弊害など、日本では適切な英語教育がなされていないといえます。

2)日本には英語の実践場が少ない

 他方、語学は質より量が必要な側面もありますが、日本では英語に触れる絶対量や実践の機会が圧倒的に不足しているともいえます。

 そのため、たとえ英語に対して感受性の強い人が自主的に英語を習得したり不十分な英語教育であっても学びを自身に取り入れたりしたとしても、実用に耐える能力としての英語の実践場が少なく、能力を使うことも鍛えることもできません。そして基本的に、語学は使わなければ使えなくなります。特に非母語であればその傾向は顕著となります。

 そのうえ、和製英語の氾濫によって、間違った英語に触れる機会は多いといった弊害もあります。

3)多くの日本人は英語に対する切実さが希薄

 さらに、日本というローカルな視点に立てば、英語能力のプライオリティは未だにそれほど高くないといえます。

 日本で就労する際に英語能力が不可欠となる場合は少なく、また日本語コンテンツの充実によって文化的にも英語の必要性をそれほど感じていないとなると、本質論として日本で生活する多くの日本人にとって英語は不要といえます。

 そして実用のための能力ではないため脳のリソースが割かれることなく、結果として英語ができない日本人のまま過ごすこととなっているように思えます。

日本人にとって“英語ができる”とは?

 ところで、一言に「英語」といっても、多様な側面があります。たとえば、「読む・聞く・書く・話す」の言語の四技能から考えてみてもなにを目標に設定するのか、すなわち“(英語の)なにをできるようになりたいのか”によって、学習法も違えば出来不出来の判断基準も異なってきます。極論をいえば、「Can you speak English?」と話しかけられた際に「No!」と応えられる人は、英語が“全く”できないとはいえません。

 日本文学研究家ドナルド・キーンは、母語は英語で日本語ネイティブではありません。しかし、『万葉集』から三島由紀夫までといわれるほど古今の日本文学に精通し、『源氏物語』を英訳したり松尾芭蕉について活写したりと、日本語ネイティブ以上に日本語が“できる”アメリカ人でした。しかし日本人の知人と喫茶店に入り日本語で書かれたメニューを何気なく読んだとき、「読めるのですか!?」と驚かれたというエピソードがあります(なお、ドナルド・キーンは2012年に帰化申請が受理され、“英語ができる日本人”となりました)。

 ひるがえって捉え直してみると、日本人でも英語で書かれたメニューを読める人は多数いると思います。しかし、それらの人が英語が“できる”といえるのか、さらには自身が英語が“できる”と自認しているかどうかは、わかりません。ネイティブの子どもでもできるような、挨拶や日常会話を英語で話せたりメニューや標識のような生活に必要な英語が読めたりしたからといって英語が“できる”とはいえないからこそ、多くの日本人が英語ができないとされ、また自認しているといえるのではないでしょうか。

 しかし、たとえ現状は英語ができない日本人であったとしても、(1)英語(言語)の四技能を、読む=読解力、聞く=聴取力、書く=作文力、話す=会話力と捉え直し、(2)そのうえで英語のどの能力をどのレベルまでできるようになりたいのかを明確に設定し、(3)かつ目標を達成する切実さをもって実践の場を用意しつつ適切な学習を継続してできるようにすれば――、英語ができる日本人となれる可能性は十分にあると思えます。

<参考文献>
・「亡国の英語教育 -日本人と英語の未来-」『kotoba 39』(鳥飼玖美子・斎藤兆史著、集英社)
・『英語独習法』(今井むつみ著、岩波新書)
・「キーン【Donald Lawrence Keene】」『デジタル大辞泉』(小学館)
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