社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.06.05

ドラえもんのひみつ道具「通り抜けフープ」はもう完成している!

実在するのは「通り抜けフープ」

 タケコプター、どこでもドア、スモールライト、もしもボックス、暗記パン、タイムマシン…。小さな頃、ドラえもんの「ひみつ道具」があったらいいのに、と思ったこと、ありませんか。東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻准教授・大関真之氏は、そのひみつ道具のうちの1つがすでに開発されていると言います。そのひみつ道具とは、壁に貼ると穴が開き、壁を通り抜けられるようになる「通り抜けフープ」です。そして、現代の通り抜けフープとは、「超電導」です。

 超電導という言葉、どこかで聞いたことがある方が多いかもしれません。実は、今まさにJR東海がリニア中央新幹線で実用化を進めている「リニアモーターカー」や、病院で身体や脳のなかを詳しく覗くときに使われる「MRI」に、超電導が使われています。

 では、超電導とは何なのでしょうか。大関氏は著書『先生、それって「量子」の仕業ですか?』の中で、「電気抵抗ゼロ、つまり、何の抵抗もなく電気を容易に流すことができるという現象です」と書いています。実は特定の金属を冷やすと、その金属の電気抵抗がゼロになります。すると、電気がその金属の中を通り抜けられるようになるというわけです。超電導は、まさに現代の通り抜けフープなのです(人間が通り抜けできるわけではないですけどね)。

リニアモーターカーもMRIも太陽電池も「量子」の仕業

 ところで、超電導はなぜ起こるのでしょうか。それは「量子」の仕業です。量子とは「物理量の限界単位」で、子どものときに学校で習った「原子」や「分子」は、量子世界に存在しています。この量子世界では、私たちの世界で考えられないような現象がいくつも起こっています。たとえば、量子世界の小さな粒は、物質をすり抜けることがあります。2015年、東京大学宇宙線研究所の梶田隆章教授がノーベル物理学賞を受賞しましたが、その梶田教授が研究している「ニュートリノ」という小さな粒は、何と「人間の体はもちろん地球ですらまるごとすり抜けていってしまいます」と同書にあります。また、先ほど説明した超電導は、金属の中を電気の粒たちが通り抜けやすくなる現象です。量子世界では、「すり抜け」が当たり前のように起こるのです。

 こうした量子の不思議な現象を利用した技術は、実は超電導以外にも数多くあります。コンピューターを動かしている「半導体」は量子の特性を上手に利用していますし、「太陽電池」「デジタルカメラ」「レーザーポインタ」なども量子現象を活用した技術です。さらに最近は、「量子コンピューター」という画期的なコンピューターの開発も進んでいます。あれもこれも、実は量子の仕業なのです。

量子を研究すれば、タイムマシンができるかも?

 そんな量子世界ですが、研究はまだまだ発展途上だと言われています。しかし、これから研究が進んでいくと、どんなことが可能になるのでしょうか。大関氏は同書に中でこんなことを語っています。

「宇宙には過去に生まれて散らばっているたくさんの小さな粒がいます。この小さな粒を捕まえて、どこから来たのかを訊ねることができたら、タイムマシンはできるのではないでしょうか」

 つまり、もしかするとドラえもんの「ひみつ道具」の1つである「タイムマシン」が今後、開発される日が来るかもしれない、ということです。量子研究には、このように、さまざまな夢と可能性が秘められているのです。

<参考文献>
『先生、それって「量子」の仕業ですか?』(大関真之著、小学館)
https://www.amazon.co.jp/dp/409388515X/

<関連サイト>
大関真之氏の研究室ホームページ
http://www.smapip.is.tohoku.ac.jp/~mohzeki/

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴

国際社会における中国の動きに注目が集まっている。新冷戦ともいわれる米中摩擦が激化する中、2021年7月に中国共産党は創立100周年を迎えた。毛沢東以来、初めて「思想」という言葉を党規約に盛り込んだ習近平。彼が唱える「中...
収録日:2021/07/07
追加日:2021/09/07
小原雅博
東京大学名誉教授
2

史料読解法…豊臣秀吉による秀次粛清の本当の理由とは?

史料読解法…豊臣秀吉による秀次粛清の本当の理由とは?

歴史の探り方、活かし方(4)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈上〉

実際に史料をどうやって読み解いていけばいいのか。今回から具体的な史料の読み解き方をケース・スタディしていく。最初は『太閤記』に関する参考資料を用いて、太閤・豊臣秀吉と関白・秀次の関係を考える。そもそも『太閤記』...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/22
3

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観

岡本浩氏、長谷川敏彦氏の話を受けて、今回から鎌田氏による講義となる。まず指摘するのは、空海が説く『弁顕密二教論』の考え方である。この著書で空海は、仏教の顕教は「中論」「唯識論」「空観」など世界を分割して見ていく...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/20
4

ギャングの代わりに弁護士!? 壮絶なアメリカ労働史の変遷

ギャングの代わりに弁護士!? 壮絶なアメリカ労働史の変遷

内側から見たアメリカと日本(4)アメリカ労働史とトランプ支持層

労働経済を学んでいた島田氏は、ウィスコンシン大学留学中、労働者の教化運動に参加している。アメリカ産業史を学習する中、労働運動の実態を触れ、ウォルター・ルーサーとヘンリー・フォードの熾烈な闘いを知ったからだ。労働...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/18
5

熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン

熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン

熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法

「熟睡とは健康な睡眠」だと西野氏はいうが、健康な睡眠のためには具体的にどうすればいいのか。睡眠とは壊れやすいもので、睡眠に影響を与える環境要因、内面的要因、身体的要因など、さまざまな要因を取り除いていくことが大...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/11/23
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授