テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.09.22

私たちの給料「手取り」が増えない理由とは?

 日本が世界でもトップクラスの重税国家だということをご存じでしょうか。

 国民所得に対して税金や健康保険料などの社会負担がどれくらいの比率になっているかを表す「国民負担率」という指標があります。日本は2013年が41.6パーセントで、世界27位でした。2016年はさらに上昇して43.9パーセントに達しています。

 とはいえ、世界ランク27位であればそんなに上位の方ではないと思われるかもしれません。しかし、これだけで話は終わりません。国の財政赤字という要素も考慮に入れなければ、実質的な負担率は見えてこないのです。

日本は国民1人あたりの借金が約900万円で世界1位

実は、日本は国民1人あたりの借金が約900万円で、なんと世界1位。これを踏まえて、あらためて、国民負担率を計算すると、実質的には50.6パーセントとなり、収入の半分以上を強制的に徴収されているのです。

 重税にするのであれば、北欧諸国のようにせめて高福祉を実現してほしいものですが、現状は高福祉とは程遠い状況といえます。

年金も健康保険料も「隠れ増税」

 「世界でもトップクラスの重税国家」と言われても、もしかすると、そのように実感している方はあまり多くはないかもしれません。しかしながら、国から高い税が徴収されていることはたしかなので、多くの人が納税意識のないままに税金を支払っているということになります。

 『隠れ増税 なぜあなたの手取りは増えないのか』(山田順著、青春出版社)では、「国民に見えないところで決まっている増税」や「増税の形をとらなくてもいつの間にか負担増になっている、実質的な増税」のことを「隠れ増税」と名付けています。

 たとえば、身近な分かりやすい例でいうと、年金や健康保険料も「税」の名はついていませんが、強制的に徴収されるので一種の税金だといえるでしょう。

「隠れ増税」の標的はサラリーマン

 サラリーマンは、源泉徴収制度によって毎月給与から所得税や住民税を天引きされます。そのため、多くの人が自分がどれくらいの税金をどんな仕組みで徴収されているのかを把握していません。

 視点を変えると、なるべく税金をたくさん徴収したい国としては、源泉徴収制度は「隠れ増税」するための格好のターゲットなっているというわけです。さらに、個人事業主と違って、収入を100パーセント把握できるサラリーマンはとても都合のいい納税者といえます。

 実際に、サラリーマンに対して、「給与所得控除」の縮小という見えにくいかたちでどんどんと増税が行われています。私たちの手取りが増えない理由はここにあるのです。

 『隠れ増税 なぜあなたの手取りは増えないのか』の著者の山田順氏は、これを「サラリーマンの増税」と呼び、今後もますます増税は強化されていくだろうと予測しています。驚くべきは、サラリーマンの最後の砦である「退職金」も増税の標的にされる可能性が高まっているそうです。

 山田氏はアベノミクスは「増税ミクス」であり、その当面のゴールは2019年の消費税増税にあるという見方を示しています。この見方にしたがえば、この先も日本は重税国家の道をひた走ることになります。

 他方で、私たちサラリーマンが節税する方法はかなり限られており、残念ながら、手取りが大きく増える裏技はありません。

 そうした状況の中で、まずできることは複雑な日本の税の仕組みをすこしでも理解していくことだと思います。税を考える手始めとして、まずは源泉徴収制度のもとで、いったいどれくらい自分が税金を支払っているのかを調べてみるのはいかがでしょうか。

<参考文献・参考サイト>
・『隠れ増税 なぜあなたの手取りは増えないのか』(山田順著、青春出版社)
・隠れ増税はこんなにある!強欲な族議員と官僚が断行する「弱いものイジメ」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37625
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由

世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由

数学と音楽の不思議な関係(4)STEAM教育でつくる喜びを全ての人に

世界では「創造性がどれくらい大事か」という問題意識が今、急激に高まっている。創造性とは全ての人にあり、偏差値などでは絶対に計れない、まさに無限軸の創造性のこと。そうした創造性を育む学びが「STEAM教育」である。最終...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/09/18
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
2

なぜ日本の所得水準は低いのに預金残高は大きいのか

なぜ日本の所得水準は低いのに預金残高は大きいのか

続・日本人の「所得の謎」徹底分析(2)政府債務と預金残高の背景

国際的に見て、政府の債務残高が大きい日本。その背景には、バブル崩壊後の財政赤字を取り戻せていないことがあった。その一方で、預金残高も高い日本。所得が低いのに預金が多い日本の謎を解説する。(全4話中第2話)
※...
収録日:2025/07/10
追加日:2025/09/17
養田功一郎
元三井住友DSアセットマネジメント執行役員 YODA LAB代表 金融・経済・歴史研究者
3

米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長

米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長

経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力

人が成長していくために重要な経験学習。その学習サイクルを適切に回していくためには、「経験から学ぶ力」が必要になる。ではそこにはどのような要素があるのか。ストレッチ、リフレクション、エンジョイメントという3要素と、...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/17
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授
4

「100年戦争」と考えて戦争に突入した日本の現実

「100年戦争」と考えて戦争に突入した日本の現実

戦前日本の「未完のファシズム」と現代(8)満州事変と世界大恐慌

日本の陸軍は第二次世界大戦を「100年戦争」であると見なした。勝てる見込みは少なかったにもかかわらず、天皇と国民の一体性という精神主義によって、総力戦になだれこんでいった。石原莞爾が満州事変を起こした時に描いたスト...
収録日:2020/02/26
追加日:2020/08/04
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
5

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率

日本の政治史を見る上で地理的条件は外せない。「島国」という、外圧から離れて安心をもたらす環境と、「山がち」という大きな権力が生まれにくく拡張しにくい風土である。特に日本の国土は韓国やバルカン半島よりも高い割合の...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/15
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家