社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.11.10

「透明飲料」はなぜ人気?その理由の裏にある日本社会の闇

 2017年9月26日、大手飲料メーカー・サントリーから透明のミルクティー「サントリー天然水 PREMIUM MORNING TEA ミルク」が発売されて大きな話題になりました。このシリーズではほぼ5か月前の4月25日に透明のレモンティーが発売しており、このときも注目を集めましたが、今回はレモンよりもさらに透明にすることが難しそうなミルク入り。世間の驚きもひとしおです。

 そもそも透明なのにちゃんとミルクティーの味がするのかというと、そこは心配無用。感じ方に個人差はありますが、味はもちろん香りもしっかりしたミルクティーで、単においしいという理由で買えるレベルです。水にミルクティーの風味付けをしただけとは思えません。

 サントリーのサイトでこのミルクティーのQ&Aを見ると、乳アレルギーの人は飲まないようにとあります。この点からも間違いなくミルクを使っているとわかりますが、一体どのようにして透明につくられているのでしょうか。

ミルクティーは二重の手段で透明にしている

 レモンティーのときから衝撃的な透明色となっているこのシリーズ。紅茶の色が透明なのは、茶葉に高温の水蒸気を当てて色を出さずに香りと味のみを抽出するからだそうです。独自製法とのことですが、ジンや焼酎のような蒸留の技術を使用していると推測されます。

 ミルクティーではもうひとつ、ミルクを透明にするという難問がありますが、こちらは2015年に同じくサントリーから発売した「ヨーグリーナ&サントリー天然水」の技術が使われているようです。

 ヨーグリーナは透明なのにヨーグルトの味がするという、サントリー透明飲料のさきがけ。乳清と呼ばれる乳由来の透明成分を発酵させて透明を保っています。ヨーグリーナとミルクティーの原材料を見比べると、両者ともに牛乳の表記はなく乳清が含まれていることから、ミルクティーも乳清で透明にしていると考えられます。

 透明ミルクティーにはサントリーのふたつの技術が集結しているようです。

なぜ透明飲料が増加しているのか

 技術がすごいことはわかったところで、なぜわざわざ紅茶を透明にするのかという疑問が新たにわいてきます。

 透明飲料ブームはこのレモンティーとミルクティーが最初ではなく、すでに数年前からはじまっていました。火つけ役は2010年に日本コカ・コーラから発売された「い・ろ・は・す みかん」といわれます。フレーバーウォーターと呼ばれる、主にフルーツの味と香りが加えられた透明飲料は、水のような外見からクリーンなイメージがあり、健康志向が強い近年の消費者に広く受け入れられました。

 しかし、サントリーのニュースリリースによると、フレーバーウォーターは見た目が子どもっぽくて職場のデスクに置きにくいという意見や、紅茶飲料の甘さが気になり大人になってから敬遠するようになったという意見があったとのこと。そこで大人向けの商品として、スタイリッシュなパッケージデザインの透明紅茶飲料を開発したのだそうです。

意外な需要に日本社会の旧態然とした息苦しさが見え隠れ

 ところが、透明ミルクティー発売と同時にSNSでは不穏なコメントが散見されるようになりました。ライブドアニュースによると、ツイッターで「透明だから会議とか学校に持ち込める」、「小中学生が水筒に入れて学校へ持って行ってもバレない」などの投稿に加え、公共機関に対して「仕事中に職員がジュースを飲んでいる」という苦情がくるエピソードを上げ、透明飲料はそういう人たちの需要に応えるのではないかとするコメントも現れたとのことです。また、「水、お茶、コーヒー以外を飲んでいると白い目で見られる」職場も存在するようです。

 こうした話が真実かどうかはわかりませんが、日本には飲み物ひとつでも気を配らなくてはいけない風潮が残っていることも事実でしょう。本来の開発意図からずいぶん離れた需要に、旧態然とした息苦しさが見え隠れしています。

<参考サイト>
・サントリーQ&A
http://www.suntory.co.jp/customer/faq/005519.html?fromid=faq_recommend
・ライブドアニュース
http://news.livedoor.com/article/detail/13692559/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか

葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか

葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化

浮世絵を中心に日本画においてさまざまな絵画表現の礎を築いた葛飾北斎。『富嶽三十六景』の「神奈川沖浪裏」が特に有名だが、それを描いた70代に至るまでの変遷が実に興味深い。北斎とその娘・応為の作品そして彼らの生涯を深...
収録日:2025/10/29
追加日:2025/12/05
堀口茉純
歴史作家 江戸風俗研究家
2

夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは

夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは

熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために

「腸脳相関」という言葉がある。健康には腸内環境が大切といわれるが、腸で重要な役割をしている物質が脳にも存在することが分かっている。「バランスの良い食事」が健康ひいては睡眠にも大切なのは、このためだ。人生は寝るた...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/12/14
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
3

平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?

平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?

平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想

平和は、いかにすれば実現できるのか――古今東西さまざまに議論されてきた。リアリズム、強力な世界政府、国家連合・連邦制、国連主義……。さまざまな構想が生み出されてきたが、ここで考えなければならないのは「平和」だけで良...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/08
川出良枝
東京大学名誉教授 放送大学教養学部教授
4

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制

「バイアスがかかる」と聞くと、つい「ないほうが望ましい」という印象を抱いてしまうが、実は人間が生きていく上でバイアスは必要不可欠な存在である。それを今井氏は「マイワールドバイアス」と呼んでいるが、いったいどうい...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/09
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く

自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く

禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅

大学院を中退して禅の道に進み、アメリカ東海岸で18年間禅堂を開いた藤田一照師に、禅と仏教の心について話を聞いていく。アメリカの禅にはすでに百年近い歴史があり、最初に鈴木大拙が伝えたといわれている。その後、一時はカ...
収録日:2024/08/09
追加日:2025/01/13
藤田一照
曹洞宗僧侶