社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
なぜ一億総「目くじら社会」になってしまったのか
このところ、謝罪会見が異様に多いと思いませんか。また、「空気を読め」という同調圧力が強く、バッシングやSNS炎上、ヘイトも頻発しています。なぜ、日本人はこんなにも目くじらを立てるようになったのでしょうか。『目くじら社会の人間関係』(佐藤直樹著、講談社)を参考に「目くじら社会」の真相に迫ります。
著者の佐藤直樹氏は九州工業大学名誉教授で、目くじら社会と大きく関係する「世間」について研究する世間学の第一人者でもあります。1999年に日本世間学会を設立し、初代代表幹事として参画しました。著書に『なぜ日本人は世間と寝たがるのか: 空気を読む家族』(春秋社)、『「世間」の現象学』『犯罪の世間学: なぜ日本では略奪も暴動もおきないのか』(ともに青弓社)などがあります。
1998年頃に何が起こったかというと、人々の競争を促すグローバル化と新自由主義の浸透です。この頃、規制緩和や構造改革が叫ばれ、職場には成果主義がもちこまれました。これをもって年功序列と終身雇用をベースとする日本的雇用制度は崩壊していくことになります。
競争の激化にともなって、逆に世間の同調圧力が急に高まりました。つまり世間の逆襲です。これが目くじら社会誕生のきっかけとなりました。
こうして社会と世間の違いを列挙してみると、たしかに日本人は社会より世間を重視していように思えます。たとえば、個人の犯罪に対してその家族が大バッシングを受けるのは世間の集団主義が強く関係しているのでしょう。
もっと身近な例でいえば、日本人が電車で席を譲るのが下手なのは、ウチ・ソトを厳格に区別するからです。身内には親切にできても、ソトと判断したヨソ者や赤の他人にはぎこちない対応をしてしまいます。
ただし、日本では社会より世間が優位に置かれています。世間には抗えません。世間が敵視したものは合法だろうがなんだろうが攻撃の対象となってしまうのです。
その他、セクハラ、少子化・晩婚化、夫婦別姓、アイドルの恋愛禁止、付き合い残業や過労死、家より会社に安心感を抱く日本人、自殺率が高いなど、日本のさまざまな社会問題に世間のルールが大きな影響を及ぼしていると佐藤氏は指摘しています。
01:みんな一緒じゃなくてもいい。「いろんな人がいてもよい」と考える。
個人を生かすという発想を大切にしましょうということです。日本はタテ社会だけど実はヨコ(=世間)の圧力もかなり強いのです。それに同調しないように心がけることですね。
02:他人をねたまない。他人は他人、自分は自分と考える。
日本には独特の「ねたみ」意識があります。日本社会は表面的には平等主義を掲げながら、実態はかなり不平等な社会構造になっているため、そのねじれが「ねたみ」が発生する原因です。世間は排他性が強い点も主な特徴のひとつです。
03:つきあい残業をやめる。
世間は共感によって成り立っています。共感といえば聞こえはいいですが、共感過剰は過労死を生みだします。01と同様に「みんな一緒じゃなくていい」のです。
04:「お返し」の過剰は控えよう
日本には「お返し」文化があります。「お返し」は悪いことではありませんが、お中元・お歳暮や香典返しから返信メールまで、心理的負担を感じたら考えなおしたほうがいいということです。ほどほどが一番なのですね。
05:前世、聖地巡礼やパワースポット巡りが好きな人は要注意。
いわゆるスピリチュアルものは怪しいものも少なくありません。日本人は無宗教といっても、実は信仰心はけっこうあついため信じ込みやすいといえます。あまり惑わされないように気をつけたほうがいいということです。
06:イエ意識にとらわれないようにする。
イエとは家のことです。家族を大切に思う気持ちは大事なことですが、自分を犠牲にしてまで責任をとることはありません。とくに親の責任を過剰に考えないようにすることです。
いかがですか。この機会に一度、世間について考えてみてはどうでしょう。
著者の佐藤直樹氏は九州工業大学名誉教授で、目くじら社会と大きく関係する「世間」について研究する世間学の第一人者でもあります。1999年に日本世間学会を設立し、初代代表幹事として参画しました。著書に『なぜ日本人は世間と寝たがるのか: 空気を読む家族』(春秋社)、『「世間」の現象学』『犯罪の世間学: なぜ日本では略奪も暴動もおきないのか』(ともに青弓社)などがあります。
1998年がターニングポイント
佐藤氏は、「世間」の狂暴化が目くじら社会の原因になったと考えています。「世間」とは伝統的な人間関係、あるいは古いしきたりのようなもので、明治時代以降、西洋化の浸透とともにいずれは消滅していくだろうと考えられていました。ところが、1998年頃をさかいに世間は復活をとげ、逆に暴走し始めたと佐藤氏は見ています。1998年頃に何が起こったかというと、人々の競争を促すグローバル化と新自由主義の浸透です。この頃、規制緩和や構造改革が叫ばれ、職場には成果主義がもちこまれました。これをもって年功序列と終身雇用をベースとする日本的雇用制度は崩壊していくことになります。
競争の激化にともなって、逆に世間の同調圧力が急に高まりました。つまり世間の逆襲です。これが目くじら社会誕生のきっかけとなりました。
日本人が電車で席を譲れない理由
さきほど「『世間』とは伝統的な人間関係、あるいは古いしきたりのようなもの」と伝えましたが、世間は日本だけの独特の考え方です。西洋はもちろん、お隣の韓国や中国にも世間はありません。世間と対比されるのが社会です。社会が契約関係、法の下の平等、個人主義、聖・俗の分離、実質性の重視、平等性などに基づいているのに対して、世間は贈与・互酬の関係、身分制、集団主義、聖・俗の融合、儀式の重視、排他性(ウチ・ソトの区別)に従います。こうして社会と世間の違いを列挙してみると、たしかに日本人は社会より世間を重視していように思えます。たとえば、個人の犯罪に対してその家族が大バッシングを受けるのは世間の集団主義が強く関係しているのでしょう。
もっと身近な例でいえば、日本人が電車で席を譲るのが下手なのは、ウチ・ソトを厳格に区別するからです。身内には親切にできても、ソトと判断したヨソ者や赤の他人にはぎこちない対応をしてしまいます。
生活保護受給者バッシングの真実
生活保護受給者に対する視線が厳しいことも世間が関わっています。生活保護の受給は法の下における個人の権利です。正しい手続きのもとで受給すれば、他人からとやかく言われる筋合いはないはずです。ただし、日本では社会より世間が優位に置かれています。世間には抗えません。世間が敵視したものは合法だろうがなんだろうが攻撃の対象となってしまうのです。
その他、セクハラ、少子化・晩婚化、夫婦別姓、アイドルの恋愛禁止、付き合い残業や過労死、家より会社に安心感を抱く日本人、自殺率が高いなど、日本のさまざまな社会問題に世間のルールが大きな影響を及ぼしていると佐藤氏は指摘しています。
「やさしい世間」のための6箇条
とはいえ、必ずしも世間が悪いというわけではありません。災害時の無法地帯で助け合いができるのは世間のおかげです。問題は、どうすれば目くじら社会を克服できるのか、ということです。それは「きびしい世間」から「やさしい世間」に転換を図ることで、「やさしい世間」を実現するために一人一人が実践できる6箇条を佐藤氏は記しています。以下、要約してお伝えします。01:みんな一緒じゃなくてもいい。「いろんな人がいてもよい」と考える。
個人を生かすという発想を大切にしましょうということです。日本はタテ社会だけど実はヨコ(=世間)の圧力もかなり強いのです。それに同調しないように心がけることですね。
02:他人をねたまない。他人は他人、自分は自分と考える。
日本には独特の「ねたみ」意識があります。日本社会は表面的には平等主義を掲げながら、実態はかなり不平等な社会構造になっているため、そのねじれが「ねたみ」が発生する原因です。世間は排他性が強い点も主な特徴のひとつです。
03:つきあい残業をやめる。
世間は共感によって成り立っています。共感といえば聞こえはいいですが、共感過剰は過労死を生みだします。01と同様に「みんな一緒じゃなくていい」のです。
04:「お返し」の過剰は控えよう
日本には「お返し」文化があります。「お返し」は悪いことではありませんが、お中元・お歳暮や香典返しから返信メールまで、心理的負担を感じたら考えなおしたほうがいいということです。ほどほどが一番なのですね。
05:前世、聖地巡礼やパワースポット巡りが好きな人は要注意。
いわゆるスピリチュアルものは怪しいものも少なくありません。日本人は無宗教といっても、実は信仰心はけっこうあついため信じ込みやすいといえます。あまり惑わされないように気をつけたほうがいいということです。
06:イエ意識にとらわれないようにする。
イエとは家のことです。家族を大切に思う気持ちは大事なことですが、自分を犠牲にしてまで責任をとることはありません。とくに親の責任を過剰に考えないようにすることです。
いかがですか。この機会に一度、世間について考えてみてはどうでしょう。
<参考文献>
『目くじら社会の人間関係』(佐藤直樹著、講談社)
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062915038
<関連サイト>
佐藤直樹氏のホームページ
http://satonaoki.com/
『目くじら社会の人間関係』(佐藤直樹著、講談社)
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062915038
<関連サイト>
佐藤直樹氏のホームページ
http://satonaoki.com/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
より良い人生への学び…開かれた知、批判の精神、学ぶ主体
「アカデメイア」から考える学びの意義(4)学びの3つのキーワード
私たちにとって「学び」はどんな意義を持つのか。学びについて考えるべき要素は3つあると納富氏はいう。さらに、「学びは生きる場所」でもある。今生きている人と対話をする。先人たちと書物を通じて対話する。そのことで、自分...
収録日:2025/06/19
追加日:2025/09/03
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
「ヒトは共同保育の動物だ」――核家族化が進み、子育ては両親あるいは母親が行うものだという認識が広がった現代社会で長谷川氏が提言するのは、ヒトという動物本来の子育て方法である「共同保育」について生物学的見地から見直...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/08/31
日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道
未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発
日本は第二次大戦後に軍事飛行等の技術開発が止められていたため、宇宙開発において米ソとは全く違う道を歩むことになる。日本の宇宙開発はどのように技術を培い、発展していったのか。その独自の宇宙開拓の過程を解説する。(...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/02
日本は集権的か分権的か…地理と歴史が作る人間の性質とは
「集権と分権」から考える日本の核心(1)日本の国家モデルと公の概念
今も明治政府による国家モデルが生きている現代社会では、日本は中央集権の国と捉えられがちだが、歴史を振り返ればどうだったのかを「集権と分権」という切り口から考えてみるのが本講義の趣旨である。7世紀に起こった「大化の...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/08/18
著者が語る!『『江戸名所図会』と浮世絵で歩く東京』
編集部ラジオ2025(19)堀口茉純先生の「講義録」発刊!
テンミニッツ・アカデミーで6回のシリーズ講義として続いてきた、堀口茉純先生の《『江戸名所図会』で歩く東京》が、遂に講義録として発刊されました。今回の編集部ラジオでは、著者の堀口茉純先生にお越しいただき、この書籍の...
収録日:2025/08/19
追加日:2025/09/03