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論理に勝るのは空気?知っておくべき日本の特殊性

TOTOの北九州発グローバル戦略(2)実は海外でも稼ぐTOTOの「けじめ」

成清雄一
TOTO株式会社 常勤監査役
情報・テキスト
『空気の研究』(山本七平著/文春文庫)
 
日本社会をコントロールしているのは、法律でも人でもない。では何か? 日本企業が海外へ進出するときに知っておくべき「日本の特殊性」とは? 実は海外でも稼いでいるTOTO株式会社の北九州発グローバル戦略。その根底にある「けじめ」の思想を、同社取締役常務執行役員・成清雄一氏が語る。(全5話中第2話目、インタビュアー:大上二三雄氏/エム・アイ・コンサルティンググループ株式会社代表取締役)
時間:19:31
収録日:2014/09/18
追加日:2015/01/20
≪全文≫

●実は海外で稼ぐTOTO


大上 先ほど国際部門の話がありましたが、TOTOのグローバル化は、外から見ると、他の企業に比べてややスローペースにも見えます。一方で、中国で非常に大きな利益を上げていたり、インドで工場をつくったり、タイでは合弁を解消して自らの経営になる新たなプロセスを歩むといったように、やるときにはそれなりに突っ込んでいっているような印象を受けます。そうしたTOTOのグローバル化には、一体どのような特徴があると思われますか。ご専門である人材や組織の面を中心にお聞かせください。

成清 そうですね。13年度の連結の売上を見ても、売上そのものは、海外の住宅設備はまだ全体の18パーセントくらいしかなく、国内が8割弱を占め、残りが新領域事業です。ですが、営業利益だけを見ると、海外住設が約3割を稼ぎ出しているので、海外事業はおかげさまで順調にいっているかなと自分たちとしては思っているところです。


●グローバルナンバーワンである前に、リージョンのナンバーワンになれ


成清 弊社の特徴ですが、たまたま私が人財の部署に戻ってきて、今の立場で、これから出向していくメンバーに、毎年の出向前研修で、一番最初に話すことがあります。弊社の第八代社長に黒河隼人という人がいて、彼が社長のときにインドネシアに工場を建てました。現地の工場を建てて進出する初めてのケースでした。それが1977年です。その時に、向こうに行くメンバーに彼が言った言葉が大きく二つあります。一つが、「自分の国の文化が正しいと信じて、それを現地で押しつけてはならない」ということ。もう一つが、「相手の国の風俗、習慣、宗教をできるだけ理解し、異なることが必ずしも悪くないということを見出す努力をしなさい」ということ。この二つを皆に伝えました。これがわれわれのベースになっています。

 いろいろな国、地域によって、文化や歴史が違いますから、単純に規模が大きいだとか、海外の売上比率が高いだとかいうことではなく、われわれはあくまでも、その国でその国の顧客に支持され、必要とされるブランド、会社になりたい。ですから、グローバルナンバーワンである前に、リージョンのナンバーワンになり、それが集まって、最終的にグローバルナンバーワンになれるのだろうということを、基本的な考え方にして進めてきているところです。

大上 そういった1977年当時の言葉が今も生きていて、海外に行く人に成清さんがそのメッセージを伝えているのですね。


●アメリカは法治国家。では日本は?


大上 あと、成清さんは日本人の意識や文化についてよく研究をし、独自の分析をされ、それを今の経営に活かしているかと思うのですが、そういったところについて、TOTOで実際にグローバルに出て行く人に、どのような内容の話をしているのですか。その辺りをもう少し聞かせてください。

成清 先ほどの黒河の言葉ではありませんが、自国の文化、風俗、習慣といろいろな面がありますが、いろいろ言っても仕方がないので、私が実際に研修で話しているのは、一つは社会規範の問題です。法律だけでなく、その国や地域によって異なる規範の話です。もう一つは今、人財を担当していますので、雇用慣行の話です。この二つは必ず話します。

 海外の話というより、むしろ日本が少し特殊だという話について、日本人の言葉で過去に語られてきた社会学系の図書が数多くあります。例えば法律の話でいうと、川島武宜さんという人が『日本人の法意識』という本を書いています。そこにこんな話が載っています。明治憲法ができたあと、日本人はすごいことに、10年足らずで民法や商法や刑法といった五大法典をあっという間に完成させてしまった。その理由は何かというと、それは、法律をつくったのはあくまでも「治外法権制度の撤廃を欧米に認めてもらう手段だったからだ」と書いてあるのです。これは面白い考え方だと思います。

 川島さんは何が言いたいのかというと、「それ以前の日本人社会が別にこういう西洋的な法律を必要としたわけではない」ということだと思います。法律がなかったから日本が非常に治安の悪い国だったかというとそうではなく、ほとんどの人が平和に幸せに暮らしていました。ですから、法律とは、日本人の目から見ると、本当に規範として必要だったのでなく、あくまでも不平等条約の撤廃という目的のためにつくったものだったということです。従って、川島さんいわく、「日本人にとって法律とは、ある意味で鹿鳴館と同じ後進国日本の飾りだ」というようなことをおっしゃっています。

 例えば、民法は、私有財産の基本である所有権や契約などを規定していますが、当時の日本の農村などは、民法を前提とした生活秩序とは全く違う生活をしていたということを言っておられま...
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