●TOTOは、本社を北九州市から移さない
大上 TOTOは、北九州市という西日本の人口100万人弱の都市に今も本社を置かれており、「本社を移さない」と公言されています。また大規模な投資をして、これから北九州に新たなショールームや研究開発施設をつくるとも聞いています。しかし、東京一極集中の世の中では不便なことも多々あるのではないかと思います。発祥の地に本社機能を維持し続けていることの意味を、TOTOとして、あるいは成清さん個人はどのようにお考えでしょうか。
成清 すでに日本国内の販売やマーケティング、広報といった機能は、実は都内にあります。あと、われわれが「システム系」と呼ぶ浴室、キッチン、洗面化粧台などの製品に関わる事業部は、千葉を中心とした首都圏に事業部の本体を置いています。
一方で、海外での売上が大きいか、あるいは海外での製造比率が高い衛生陶器やウォシュレット(R)、水洗金具などの事業部、それから販売関連以外の本社機能と国際部門は、今も北九州にあります。欧米路線はあまりありませんが、アジアへはほとんど福岡空港からダイレクトで飛べるので、北九州にいてもそれほど不便はありません。
大上 そうですね。
成清 新北九州空港ができて以来、東京との行き来が便利になったこともありまして、今、本社を東京などに移動させることは特段考えていません。
●北九州市はイノベーションを起こしやすい土地柄
成清 それから、北九州という土地柄が実は良いのです。この間、大河ドラマを見ていたら、官兵衛さんが豊前に入るところでちょうど地図が出てきました。
大上 小倉城に入るシーンですね。
成清 そうです。その地図を見ると、今の北九州市のちょうど半分が豊前で、半分が筑前なのです。また、「五市合併」の五市そのものも、門司は港町で、小倉は陸軍の兵器工場があり、八幡には八幡製鐵所があるなど、それぞれ色合いの違う五市が合併しましたから、今でも「なかなかまとまりがないね」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、多様な人材が集まっていることは間違いありません。
さらにさかのぼれば、明治維新の後、八幡製鐵所ができて日本中から人が集まってきています。南側の直方市、田川市、飯塚市などの筑豊地域も、やはり炭鉱で明治維新後に人が入ってきた所です。
いろいろな人が集まると、同じ神話や文化的背景を持っていないので、できるだけ普遍的なことを言わないと議論にならないところがあります。確かにまとまるのは難しいのですが、今風にいうと、イノベーションが起きやすいとも言えるでしょう。
この間、発明協会が選定した「戦後日本のイノベーション100選」のアンケート投票トップ10の中に、私たちのウォシュレットが入りましたが、他にも地図のゼンリンさん、ロボットで非常に有名になった安川電機さんも北九州市の会社です。以前は八幡製鐵所、今の新日鉄住金さんの研究所もありました。日産自動車さんも元をたどれば戸畑鋳物という北九州の会社から生まれています。いろいろな人が集まっているという意味で、日本の地方都市の中では、研究技術開発に向いている土地柄ではないかと私は思っています。
大上 今、北九州には、北九州学術研究都市連携大学院カーエレクトロニクスコースがありますが、これは日本で唯一成功している産学連携拠点ではないかと思います。
成清 はい。
大上 トヨタ車の自動走行などの研究は、実は北九州で行われているのですよね。
成清 そうですね。トヨタ自動車さんは北九州市内ではないですが、すぐ近くに宮田工場がありますし、日産自動車さんは昔からお隣の苅田町に工場があり、多くの方が北九州市に住んで通っています。皆さん多分、そういう土地柄をご覧になっているのではないかと思います。
大上 デュポンは、ウィルミントン市というアメリカの田舎に本社があります。ドイツのBASFなどもそうです。
成清 ドイツ企業は地方に散らばっていますね。
大上 シュトゥットガルトなど80万人くらいの都市ですが、メルセデス・ベンツの本社があります。もしかすると、製造業にはイノベーションが生まれやすい適切な都市のサイズがあるのかもしれません。
成清 なるほど。
●地方に本社がある場合、交通の利便性は欠かせない
大上 ただ、おっしゃるように、交通、特に航空の利便性はある程度必要でしょう。
成清 その意味では、新北九州空港ができて本当に助かりました。私の家から歩いて10分以内のバス停から、バスで30分。ほぼ1時間ごとに羽田発着便が飛んでいます。やはり交通は大事です。そもそもTOTOが大正時代、ここに本社を置いたのも、当時の門司が港として大きかったから、つまり交通を非常に重視したからでした。
先日、新日鉄さんの方にお会いしたら、...