●実はTOTOだってM&Aをしている
大上 今、バスルームの分野で、かなり派手な経営戦略を採っている企業がありますが、そう思うと、TOTOさんはある意味、好対照のように見えます。TOTOさんが考えるこれからの戦略についてお聞かせ願えればと思います。
成清 どうもメディアの人は、そのように「好対照だ」と比較されるのですが、しかし「TOTOはM&Aをやりません」とは誰も言っていないのです。実際、われわれもM&Aをやってきています。
先ほど言った、企業理念をまっとうする、顧客の満足を追求する、あるいはリージョンナンバーワン、その地域、その地域で必要とされるという目的にかなったもの、お相手もTOTOグループで一緒にやりたい、あるいはTOTO商品を売ってもいいよというようなことで言えば、現実にM&Aもやってきています。また、投資まで行かなくても、アライアンスという形で、世界でいろいろなパートナーの方と一緒に仕事をしてきています。ですから、あまり対照的に比較するのはどうかという感じがしますが、しかしいずれにしても大事なのは、そういう経営理念をわれわれはどうやって達成していくかということなのです。
●高齢化社会の水まわりという社会課題への挑戦
成清 TOTOだとか他社さんだとか、そういうことを超えて、われわれの業界としては、高齢化が進む日本で、水まわりをどう対応していくかということがあります。トイレで苦労する、しないというのは、人間の尊厳にも関わってくる部分でもあります。皆やはり自分でトイレに行きたいと思うし、お風呂くらい自分で入りたいと思うのは当然です。この高齢化にどう対応していくかということが一つです。
それからもう一つ、日本の場合は、これから中古住宅の問題が非常に大きな問題になってきます。これをどう活用していくか。あるいは、われわれは「リモデル」と言っていますけれども、いかに、もっとよく、住みやすいものにしていくか。
この二つは、非常に大きな日本の社会問題でもありますので。これはTOTOだとかどこだとか言うよりも、業界を挙げて皆で切磋琢磨して貢献していく必要があるのではないかと思っています。
大上 やはりまずは日本のそうした社会問題に真摯に向き合っていくと。
成清 今、大上さんがおっしゃったように、「まずは日本の」というのは大事なキーワードだと考えています。ご承知かもしれませんが、これから中国が高齢化していきます。アジアの国々の多くは少子化していますので、いずれ、日本の後から高齢化してきます。
そのときに、一番大事な水まわりの世界で、どれだけ生活をサポートできる技術なり、商品なり、サービスなりを提供できるかは、非常に大事なポイントだと思います。海外に向けてももちろんそうですし、最初に「国内で」と申し上げたのは、私はこの分野は国内でも非常に数少ない成長分野だと思っているのです。ですから、ここでしっかり投資をして、われわれがビジネスを拡大していくことは、本当に大事なポイントになってくるのではないかと思います。
●「ブランドを買う」ことを目的にはしない
大上 なるほど。そういう意味では、将来のことは分かりませんが、少なくとも当面は、グローバルでブランドを買って、地域別にマルチブランドに展開していく、というようなことは、御社ではなかなか考えにくいと。
成清 そうですね。「ブランドを買う」ということが目的化することは、まずないと思います。われわれにない技術をお持ちの企業と一緒にビジネスをやっていく可能性は十分あると私は思っていますが。
大上 日本にしっかり根ざして、それで世界にじわじわ染み出していこうと。人と組織の面もそういった形でじわじわとやっていこうと。
成清 グローバル化と言っても、私もそうですし、大上さんも、皆さんそうでしょうけど、出国するときにパスポートを持っていない人はいないですよね。いろいろ言っても、日本人は日本人、中国人は中国人、アメリカ人はアメリカ人。それぞれの国の国民であるから世界にも行けるわけです。「グローバル人」のパスポートというのは、まだ見たことがありませんね、私は。
大上 そうですね。日本を去ると、では「フランチャイズはどこなのだ」ということですよね。
成清 そうですね。
大上 TOTOだったらフランチャイズは日本。そのさらに根っこは北九州という中に置いていらっしゃる。
(インタビュアー:大上二三雄氏/エム・アイ・コンサルティンググループ株式会社代表取締役)