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DATE/ 2018.02.22

出版不況だけじゃない!苦しい漫画業界の実情

 「週刊少年ジャンプ」といえば漫画雑誌の花形。かつては日本中の少年たちがキラキラと目を輝かせて毎週の発売日を待ちわびていました。1990年代には発行部数がなんと600万部を超えることもありました。現在も「ジャンプ」は少年誌では2位の「週刊少年マガジン」に圧倒的な差をつけてトップを走っています。

 しかし近年、絶対王の「ジャンプ」でさえも200万部を割り込むことが珍しくなく、苦境を強いられているのが漫画業界の実情です。ネットやスマホ、電子書籍の普及によって、出版業界全体が大不況に陥っている点が一番の理由でしょう。ただし、それだけではないようです。出版社の時代にそぐわない古い体質に批判の声が挙がっています。

漫画村のせいで漫画が売れない?

 漫画村をご存知でしょうか。著作権を無視して違法でアップロードされた漫画を無料で公開しているサイトです。その存在が知れわたると著者や出版からいっせいに批判の声があがりました。超大人気コミックの「ONE PIECE」や「進撃の巨人」も犠牲になっています。

 たたでさえ漫画が売れないのに違法サイトのせいで売り上げが落ちてはたまったものではありません。批判は当然のことでしょう。しかし、この漫画村批判に対して意外にも漫画家から批判がありました。「海猿」や「ブラックジャックによろしく」で知られる漫画家の佐藤秀峰氏は「僕が漫画村を批判しない理由」というタイトルでブログを発表しました。

 佐藤氏は漫画村に対して「違法っぽいし僕も別に肯定はしません」と前置きしながらも、「しかし、このままサイトへの批判が続いた場合、誰が一番得をするのでしょうか ?」と問題提起しています。

「僕が漫画村を批判しない理由」

 佐藤氏は、かつて大手出版社が、今の漫画村批判と同様に、中古コミックを販売するブックオフに対して強烈にネガティブキャンペーンを仕掛けて批判し倒した話を取り上げています。その結果、何が起こったのか。現在の業界地図を見ればわかるように、大手出版社はまるで手のひらを返したように、何食わぬ顔でプックオフの株主になっています。たしかに、これを読むと「誰が一番得をするのでしょうか ?」ということを問い直したくなります。

 また、佐藤氏は漫画村の影響で売り上げが下がることのエビデンスを示せる人はいないと断言しています。佐藤氏は電子書籍配信を含む著作権管理をすべてご自身で行っている数少ない漫画家のひとりであり、その発言には説得力があります。

 裏を返せば、ほとんどの漫画家は著作権を出版社に委ねており、されるがままの状態なのです。こうした現状を踏まえて、佐藤氏は漫画村批判によって「まず、漫画家は得をしません」と警鐘を鳴らしているのです。

窮地の漫画業界から私たちが学べること

 漫画村批判に対して懐疑を投げかけた漫画家は佐藤氏だけではありません。こうした状況をすこし引いてみてみると、出版社と漫画家の関係が冷え込んでいることが透けて見えます。出版不況、漫画不況で出版社も漫画家も危機にあるなかで、こうした対立を生み出してしまっていること自体が大きな問題です。

 漫画家は組織である出版社に対して立場が弱い存在です。まずは出版社が漫画家を守りそだてる姿勢を示し、漫画家の不信を取り除き、信頼を取り戻していくような体制が重要でしょう。それはとりもなおさず古い体質から脱却し、積極的に時代にマッチした方法に取り組んでいくことでもあります。他方で漫画家自身が出版社に依存せずに自立的に活動していく姿勢が必要でしょう。

 以上のような問題は漫画業界に限ったことではありません。「会社から自立する」「個人の力で活路を見出す」という姿勢は、どの業界にいる人たちにもいずれ求められることでしょう。今回の問題は出版不況によるものであくまで他人事だと考えなければ、いろいろと学びを得ることもできるのではないでしょうか。

<参考サイト>
・note:僕が漫画村を批判しない理由
https://note.mu/shuho_sato/n/na20ddb5fdfdf
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