テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.04.23

若者が増加している意外な「産業」とは?

 日本の林業人口は、ピークだった1960年代と比べると、2010年には7%まで激減したと言われます。しかし、一方で「緑の雇用」と呼ばれる林業労働者への国からの補助が2001年に和歌山県と三重県で始まって以降、林業の現場に新しく入っていく若年層が増えています。

変わらない森林面積、変わらなければいけない森林資源

 林業の歴史をひもとくと、焼け野原となった戦後復興のために日本では木材需要が急増。1960年代前半の木材生産量は6000万立方メートルに達していました。当時、森林蓄積は約19億立方メートル、うち人工林(育成林)は3割以下でした。これ以降、人工林が増え続け、2012年には森林蓄積は49億立方メートル(うち人工林6割強)を記録しながら、木材生産量は往時の1/3になっています。

 一方、森林面積を見ると、この40年間ほとんど増減はありません。面積は変わらないのに、蓄積が増えたのは、手つかずの森林資源がそれだけ増えたということ。戦後の拡大造林で植林された木々が収穫期を迎えているにもかかわらず、使われないままなのです。

 その理由は、安価で大量に入手出来る外国産材と価格競争ができないから。今や、森林蓄積量に対する年間伐採量を見ると、日本は0.53%という数字が出ています。自給率は約3割。食糧とは違って、そこに資源があるのに置き去りにされているのが現実です。

3Kの林業現場に若者参入、いずれはロボット技術の導入も

 その間に、林業で働くことは「3K(キツイ、汚い、危険)」、いまでいうブラック業界のようなイメージがすっかり定着しましたが、21世紀に入り徐々に新しい風が吹きはじめました。学校、セミナー、研修などが整備され、若者の「就業先」として林業が選択肢に入ってきたのです。

 日本の第一次産業を国勢調査で眺めると、2015年の農林漁業従事者は全国で2,145万人、平均年齢は他の産業と比べるとかなり高い61.9歳です。とくに男女共65歳以上の割合が最も高く、農林漁業従事者の半分以上を占めています。

 林業従事者と農業従事者を比較してみると、総数は農業従事者201万人に対し、林業は6万4千人と30分の1の規模。しかし、34歳以下が占める率は農業で7.3%、林業で16.3%、65歳以上が占める率は農業で52.4%、林業で21.4%の数字が上がっています。林業人口の若返り傾向に、林野庁は目を細めています。

 というのも、2003年度以降、同庁では林業就業に意欲をもつ若者に対して基本的な技術の習得を支援する「緑の雇用」事業を実施。2015年度までに、新規就業者は約1万6千人を数え、2011年度以降の新規就業者数は年間3千人程度で推移しているのです。

 戦後の植林は主にスギ・ヒノキで行われ、今なお状況は変わっていません。そのため、花粉症の人には勧められない職業なのが、つらいところです。しかし一方で、林業ロボットの実用化に熱い注目が集まっています。ハイテクの導入で作業環境が改善され、イメージが一新することはまちがいないでしょう。

木造建築に触れて、その良さを味わってみよう

 東京では2019年11月の完成を目標に、新国立競技場の建設が進められています。ふんだんに木材を使うことをうたったこの競技場が完成すれば、木造建築物への見る目が変わるかもしれません。

 意識してみると、身の回りにも木造建築が増えていないでしょうか。また、工場や倉庫など、外観では分からなくても、柱や梁などの構造部材に木材を使った建築物が増えています。

 木造建築物の増加は、2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されたことがきっかけ。国産木材を使うことは、森を育て、林業の再生を図るために、現在の日本が挑まなければならない事業でしょう。

 第28代東京大学総長を務めた小宮山宏氏が提案するように、円安が続くうちは、伐採した国産木材を輸出の眼目とすることも可能になります。林業が復活すれば、日本中に雇用が50万人生まれ、土砂崩れ災害も防げる、との見通しが述べられています。林業を取り巻く状況、これからもウォッチしていきたいものです。

<参考サイト>
・総務省:平成27年国勢調査 抽出詳細集計
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003209449
・林野庁:「平成28年度 森林・林業白書」概要
http://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/28hakusyo/gaiyou.html

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か

地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か

海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ

海底はどうやってできるのか。なぜ火山ができるのか。プレートが動くのは地球だけなのか。またそれはどうしてか。ではプレートは海底の動きの全てを説明できるのか。地球史規模の海底の動きについて、海底調査の実態から最新の...
収録日:2020/10/22
追加日:2021/05/02
沖野郷子
東京大学大気海洋研究所教授 理学博士
2

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率

日本の政治史を見る上で地理的条件は外せない。「島国」という、外圧から離れて安心をもたらす環境と、「山がち」という大きな権力が生まれにくく拡張しにくい風土である。特に日本の国土は韓国やバルカン半島よりも高い割合の...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/15
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
3

「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味

「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味

未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査

現在の宇宙開発は「国際月探査」を合言葉に掲げている。だが月は人類の移住先にも適さず、探査にさほどメリットがない。にもかかわらずなぜ「月探査」が目標として掲げられているのか。それは冷戦後、宇宙開発の目標を失った各...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/16
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
4

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本

組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授
5

トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ

トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ

トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン

アメリカのトランプ大統領は、2025年5月に訪れたサウジアラビアでの演説で「トランプ・ドクトリン」を表明した。それは外交政策の指針を民主主義の牽引からビジネスファーストへと転換することを意味していた。中東歴訪において...
収録日:2025/08/04
追加日:2025/09/13
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー