社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
オーストラリアの歴史の鍵を握る妖獣
オーストラリアに日本の河童や座敷わらしのような妖獣がいることを知っていますか。じつはこの幻の生き物、オーストラリアの近代史において重要な役割を果たしています。ここですこしオーストラリアの文化事情に分け入ってみましょう。海外旅行の役にも立つはず。
そのオーストラリアには、先述した日本の河童や座敷わらしのような妖獣がおり、バニヤップといいます。バニヤップについては、『妖獣バニヤップの歴史 オーストラリア先住民と白人侵略者のあいだで』(藤川隆男著、刀水書房)という本にとても詳しく紹介されていますので、そちらを手掛かりにお伝えします。
著者・藤川隆男氏は、大阪大学大学院文学研究科の教授で、専門はオーストラリア史。『人種差別の世界史―白人性とは何か?』(刀水書房)や『オーストラリアの歴史―多文化社会の歴史の可能性を探る 世界に出会う各国=地域史』(有斐閣)、『アニメで読む世界史』(上山益己・藤川隆男 編、山川出版社)といった書籍も手がけています。
バニヤップの童話は、ジェニー・ヴァグナー作の『バークリーズ・クリークのバニヤップ』に書かれています。残念ながら、日本語で読むことはできませんが、本書のロン・ブルックスの挿絵は「オーストラリアの原風景」になっているほど親しまれているのだそうです。姿形は別として水陸両生で国民的人気があるという点から、やはり日本の河童がイメージとしては近いと言えます。
バニヤップを通じた先住民と入植者の最初の出会いは、植民活動が落ち着き、入植者が先住民の文化に興味を抱き始めた頃でした。植民活動による暴力的な行為や感染症などが原因となって、現在アボリジナルの伝統的な姿はほとんど見ることができなくなりましたが、そうしたなかで、バニヤップのイメージが生き残り、オーストラリアのシンボルにまでなったことは、かなり奇跡に近いことだといえるのではないでしょうか。
妖怪、妖獣、あるいはモンスター、キャラクターたちが見た目の可愛さとは裏腹に、その地の歴史にとって重要な鍵を握っていることも心にとどめておくべきでしょう。
注意! 「アボリジニ」は差別用語
オーストラリアはイギリスに植民地化される前まではアボリジナルの島でした。アボリジナルというのは、先住民アボリジニのことです。日本ではあまり知られていませんが、アボリジニは現地では差別用語とされていて、アボリジナルやアボリジニーズが一般的。このコラムでもアボリジナルと記します。そのオーストラリアには、先述した日本の河童や座敷わらしのような妖獣がおり、バニヤップといいます。バニヤップについては、『妖獣バニヤップの歴史 オーストラリア先住民と白人侵略者のあいだで』(藤川隆男著、刀水書房)という本にとても詳しく紹介されていますので、そちらを手掛かりにお伝えします。
著者・藤川隆男氏は、大阪大学大学院文学研究科の教授で、専門はオーストラリア史。『人種差別の世界史―白人性とは何か?』(刀水書房)や『オーストラリアの歴史―多文化社会の歴史の可能性を探る 世界に出会う各国=地域史』(有斐閣)、『アニメで読む世界史』(上山益己・藤川隆男 編、山川出版社)といった書籍も手がけています。
オーストラリアの河童?
バニヤップは一部のアボリジナルに伝わってきた水陸両生の幻の生きものです。イギリスの侵略が進むなかで、白人入植者の民話として取り入れられ、現在オーストラリアでは知らない人がいないというくらいに著名な童話のキャラクターになりました。文学作品や映像作品にもオーストラリア的なものの象徴として取り入れられています。バニヤップの童話は、ジェニー・ヴァグナー作の『バークリーズ・クリークのバニヤップ』に書かれています。残念ながら、日本語で読むことはできませんが、本書のロン・ブルックスの挿絵は「オーストラリアの原風景」になっているほど親しまれているのだそうです。姿形は別として水陸両生で国民的人気があるという点から、やはり日本の河童がイメージとしては近いと言えます。
バニヤップの奇跡
バニヤップが興味深いのは、「先住民と入植者がお互いにこの語を他者の語として理解し、コミュニケーションの手段として使ったこと」で、広まり定着していったという点です。バニヤップという言葉はもともと一部の先住民しか使っていなかったため、入植者にとって未知の言葉だったことに加えて、実はその他の先住民のほとんどにとって未知の存在でした。バニヤップを通じた先住民と入植者の最初の出会いは、植民活動が落ち着き、入植者が先住民の文化に興味を抱き始めた頃でした。植民活動による暴力的な行為や感染症などが原因となって、現在アボリジナルの伝統的な姿はほとんど見ることができなくなりましたが、そうしたなかで、バニヤップのイメージが生き残り、オーストラリアのシンボルにまでなったことは、かなり奇跡に近いことだといえるのではないでしょうか。
妖怪、妖獣、あるいはモンスター、キャラクターたちが見た目の可愛さとは裏腹に、その地の歴史にとって重要な鍵を握っていることも心にとどめておくべきでしょう。
<参考文献>
『妖獣バニヤップの歴史 オーストラリア先住民と白人侵略者のあいだで』(藤川隆男著、刀水書房
http://www.tousuishobou.com/rekisizensho/4-88708-431-5.htm
『妖獣バニヤップの歴史 オーストラリア先住民と白人侵略者のあいだで』(藤川隆男著、刀水書房
http://www.tousuishobou.com/rekisizensho/4-88708-431-5.htm
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
「ヒトは共同保育の動物だ」――核家族化が進み、子育ては両親あるいは母親が行うものだという認識が広がった現代社会で長谷川氏が提言するのは、ヒトという動物本来の子育て方法である「共同保育」について生物学的見地から見直...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/08/31
日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道
未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発
日本は第二次大戦後に軍事飛行等の技術開発が止められていたため、宇宙開発において米ソとは全く違う道を歩むことになる。日本の宇宙開発はどのように技術を培い、発展していったのか。その独自の宇宙開拓の過程を解説する。(...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/02
天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制
「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉
現代流にいうと地政学的な危機感が日本を中央集権国家にしたわけだが、疫学的な危機によって、それは早い終焉を迎えた。一説によると、天平期の天然痘大流行で3割もの人口が減少したことも影響している。防人も班田収授も成り行...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/01
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
数学も音楽も生きていることそのもの。そこに正解はなく、だれもがみんな数学者で音楽家である。これが中島さち子氏の持論だが、この考え方には古代ギリシア以来、西洋で発達したリベラルアーツが投影されている。この信念に基...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/08/28
発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る
睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(5)シフトワークと健康問題
社会的時差ボケの発生には、働き方も大きな影響をもっている。特にシフトワークによって不規則な生活リズムを強いられる業種ではその回避が難しい。今回は、発がんリスク、メンタルヘルスの不調など、シフトワークが抱える睡眠...
収録日:2025/01/17
追加日:2025/08/30