社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.07.16

進む禁煙化…一体どこでタバコが吸えるのか?

 2018年6月19日、受動喫煙被害を防ぐ健康増進法改正案が衆院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決されました。政府は、東京オリンピック開催前の2020年4月までに全面施行することを目指しています。いったい日本の喫煙環境はこの法律によって何がどのように変わるのでしょうか?

小規模店舗はじつはほとんど変わらない?

 厚生労働省はホームページで「健康増進法の一部を改正する法律案概要」をまとめています。それによると、まず、幼稚園や保育所、小中高校、それから病院、大学、行政機関の敷地内では原則禁煙となりました。ただし、「屋外で受動喫煙を防止するための措置がとられた場所に、喫煙場所を設置することができる」とし、喫煙の猶予を残すかたちとなっています。

 注目されているのが飲食店の扱いです。政府案では、新たに開設する飲食店や経営規模の大きい店舗は禁煙としました。ただし、加熱式たばこの場合、専用の喫煙室を設ければ喫煙しながら飲食することが可能です。また、紙たばこの場合も、喫煙しながら飲食することはできませんが、専用室では喫煙可能となっています。

 さらに、個人経営または資本金5千万円以下の中小企業で、客席面積100平方メートル以下の既存の飲食店は、店頭に「喫煙」などと掲示さえすれば、喫煙専用室がなくても喫煙できることになっています。小規模店舗ではこれまでとほとんど同じように喫煙できるというわけです。

東京都では84パーセントの飲食店が対象に

 国会の審議と並行してオリンピックが開催される東京都でも動きがありました。6月27日、受動喫煙防止条例が成立しました。こちらもオリンピック開催前の2020年4月に全面施行されます。

 都条例の大きな特徴は「従業員を雇っている飲食店」を原則禁煙としたことです。あきらかに政府よりも厳しい対応となっています。逆に言えば、大きな変化が見込めるということです。東京都は都内の84パーセントの飲食店が対象になると示しています。

 都条例と政府案のあいだにはあきらかな違いがあります。じつは政府案も昨年の段階ではかなり厳しい内容のものでした。しかし、飲食店やたばこ業界への影響、さらに選挙への影響が懸念され、党内から批判が絶えず、結局はどんどん規制の網を緩くしていくことになってしまったのです。

世界基準は分煙ではなく「全面禁煙化」

 飲食店にはカラオケ店やスナックも入ります。ただし、屋外のビアガーデンは規制外となります。都条例も政府案も共通して、飲食店以外の店舗は一律原則禁煙としています。例外はゴルフ場とホテルの室内。ホテルのロビーは禁煙です。麻雀店もパチンコ店も禁煙。毎日新聞はとりわけパチンコ店が非常に厳しい状況に陥るのではないかと報じています。たしかに、クリーンで禁煙のパチンコ店はなかなか想像できません。

 禁煙化により業界によっては大きな打撃を受けることはまちがいないでしょう。それでも世界を見渡すと日本がまだまだ禁煙後進国であることがよくわかります。「e-ヘルスネット」によると、世界では「分煙」ではなく「全面禁煙化」がすすんでおり、米国のカリフォルニアやニューヨークなどの半数以上の州、欧州やニュージーランド、トルコや香港など、2016年時点で55カ国が全面禁煙となっているのだそうです。「国・州によっては、子どもが乗っている自家用車内までもが規制の対象」なのだとか。

 今後の日本の受動喫煙対策は日本国民だけでなく世界も着目しているはずです。どのくらい規制すべきか簡単な話ではありませんが、目先の選挙にとらわれることなく、十分に議論を尽くし、日本なりの立場と考え方をきちんと示してほしいものです。

<参考サイト>
・厚生労働省:健康増進法の一部を改正する法律案 (平成30年3月9日閣議決定)概要
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000189195.html
・毎日新聞:パチンコ店戦々恐々「禁煙なら行かない」の声も
https://mainichi.jp/articles/20180616/k00/00m/040/143000c
・ e-ヘルスネット:進んでいる世界の受動喫煙対策
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-05-002.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か

アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
2

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観

岡本浩氏、長谷川敏彦氏の話を受けて、今回から鎌田氏による講義となる。まず指摘するのは、空海が説く『弁顕密二教論』の考え方である。この著書で空海は、仏教の顕教は「中論」「唯識論」「空観」など世界を分割して見ていく...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/20
3

島田晴雄先生の体験談から浮かびあがるアメリカと日本

島田晴雄先生の体験談から浮かびあがるアメリカと日本

編集部ラジオ2025(28)内側から見た日米社会の実状とは

ある国について、あるいはその社会についての詳細な実状は、なかなか外側からではわからないところがあります。やはり、その国についてよくよく知るためには、そこに住んでみるのがいちばんでしょう。さらにいえば、たんに住む...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/20
4

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方

人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本

組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授