社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.07.31

クーポンは本当にお得なのか?

 新聞の折り込みに入っていたり、食事や買い物をしたときにもらったりするクーポン。最近ではネットやアプリで配信されることも増え、すっかりおなじみの存在になりました。財布やスマホの片隅に、クーポンを保存している方も多いのではないでしょうか。

つい取っておいてみるクーポンだけど

 多くの場合、クーポンには使用期限があり、しかもその期限がとても短いことも少なくありません。「○○円以上お買い上げで」という条件つきや、別にポイントカードがあってそのポイントが○倍になるなど、「本当に得なのかな」という疑問が生じるクーポンも多いですよね。また、割引額が微々たるものだと再来店の意欲は湧きにくいですし、「提供しているサービスに自信がないからお茶を濁しているのでは」とみなす人もいます。

 それでもクーポンはなくならないどころか、どんどん増えています。これは発行するお店側にメリットがあるからにほかなりません。お店はどのような意図でクーポンをつくっているのでしょうか。

お店側がクーポンを発行する理由

 お店がクーポンによって得られるメリットは、「新規顧客」と「リピーター」の獲得です。両者はアプローチのしかたが異なるので、どちらかに狙いを定めたクーポンを発行します。

 新規顧客の場合は、まだお店の特徴を知らない人が来店するので、自信作や看板商品など「お店の売りとなるもの」、「最もこのお店らしいもの」をクーポンでアピールします。開店したばかりのお店が、まず手広く集客するためによく使われる手法です。こうしてクーポンで興味を持った人がお店のサービスに満足すれば、また来店してくれるリピーターになるわけです。ただし、単純に安ければどこのお店でもいいという人は必ずいるので、現実的にはあまりリピーターが増えないという結果になることも。

 一方、リピーターの場合は、ある程度お店のよさを知っている人に配るので、普段利用しているものよりもクオリティの高い体験ができるクーポンでアピールします。ラーメン店でトッピングをプラスできたり、美容院でリッチなトリートメントを受けたりできるクーポンが該当します。こうしてお店のよさをより深く伝えることで、さらなるファンになってもらう訳です。ただし、もともとの満足度が高くなければリピーターにはならないので、一番大切なのはやはり日々のサービスや努力です。

 「お客をたくさん集めてまた来店してもらう」というお店経営の大前提を達成するために、お店側はクーポンを発行しているのです。

結局、得か損かは使う人次第

 お店は、お客獲得のためにクーポンを発行している以上、信頼を損なう行為はしません。提示すればクーポン通りのサービスを受けられるので、クーポンを提示したときの取引では、どんなに割引額が少なくても必ずお客が得をします。

 それなのに損をした気分になってしまうのは、使った側に原因があります。「安くなっているから」と単品で充分なメニューをセットにしたり、「もうすぐ期限だから」とか「○○円以上お買い上げで」という割引の条件を満たすために不要なものを買ったりしたら、満足度は低くなってしまいますよね。

 このような事態にならないよう、意識したいのがメンタルアカウンティングです。「心の会計」とも呼ばれる行動経済学の用語で、人間はお金に関して不合理な判断をするときがあるという考え方。まさに、クーポンでの失敗が不合理な判断によるものですよね。

 クーポンを使うときは「不合理な判断をするかもしれない」ことを念頭に置き、「これは本当にほしい、必要なものなのか」と自分に問いかけましょう。本当に必要なら少しの割引でもうれしく感じますし、もとから〇〇円以上買うつもりなら損した気分にはなりません。きちんとクーポンの恩恵を得られるのです。

 クーポンで得をするのも損をするのも、使う人次第。条件や期限に振り回されず、本当にほしいものを買うときにだけ使うのが賢いつきあいかたです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
2

「境地は裏切らない」とは?禅の体験から見えてきたもの

「境地は裏切らない」とは?禅の体験から見えてきたもの

徳と仏教の人生論(6)物事の本質を見極めるために

10年の修行で自我を手放し宇宙と一体化する境地に達すると、自分中心からホリスティックな視点に変わり、物事の表と裏の共通点が見えてきて、その本質がつかめるという田口氏。人生は常に新たな命題を解き明かし続ける旅である...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/11/08
3

「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方

「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方

戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題

保守的な軍国化によって、内戦への機運が高まっているアメリカだが、MAGAと極左という対立図式は表面的なものにすぎない。その根本に横たわっているのは白人とユダヤ人という人種の対立であり、それはカーク暗殺事件によって露...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/11/06
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
4

人間とAIの本質的な違いは?記号接地から迫る理解の本質

人間とAIの本質的な違いは?記号接地から迫る理解の本質

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(5)AIに記号接地は可能か

昨今、めざましい発展を遂げているAI技術。流暢にチャットをやりとりする生成AIはしかし、本当の意味で使っている言葉を理解することができるのだろうか。言語学習の根本にある「記号接地」問題から、人間とAIの本質的な違いに...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/14
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

ソニー流「人材の活かし方」「多角化経営の秘密」を学ぶ

ソニー流「人材の活かし方」「多角化経営の秘密」を学ぶ

編集部ラジオ2025(26)ソニー流!多角化経営と人材論

「人的資本経営」という言葉が、よく聞かれるようになりました。端的にいえば、「人材=コスト」ではなく「人材=資本」として捉え、人を大切にしていこうという考え方です。

「人を大切にする」というのは別に新しい...
収録日:2025/09/29
追加日:2025/11/06