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DATE/ 2018.10.06

タバコのポイ捨て禁止条例は効果があったのか?

 2002年10月、東京都千代田区がタバコのポイ捨てや区内の「路上禁煙地区」と指定した路上での喫煙を禁じる「安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例」(以下「千代田区条例」)を施行しました。この千代田区条例の画期的な特徴は、全国で初めて違反者に行政罰の「過料」2000円を科したことで、施行当初から大きな話題となりました。

 千代田区条例は制定後も、区民や千代田区在勤者から喫煙者や嫌煙者、行政の担当者や法律の専門家といった多様な立場からさまざまな意見が寄せられ、大議論を巻き起こしつつも改良されながら運用されてきました。

 ところで、千代田区条例は施行開始から十数年が経ちましたが、果たして効果はあったのでしょうか。運用の実態、千代田区条例に似た条例や準ずる条例を取り上げ、その効果のほどを検証してみたいと思います。

千代田区の定点観察結果はポイ捨て激減

 まずは結果から見てみましょう。千代田区条例の十数年の運用の結果、千代田区のタバコのポイ捨てや禁煙地区での路上禁煙は激減しました。

 例えば千代田区の秋葉原地区での定点観測の結果、千代田区条例施行直前は約1000本ポイ捨てされていた吸い殻の本数は条例施行後に激減し、現在まで6~10本前後のほぼ横ばいの状況が続いています。なお、2010年には皇居を除く全区域に「路上禁煙地区」を拡大し、その効果の範囲を拡大しました。

 ただし、千代田区条例の運用を軌道に乗せることは容易なことではありませんでした。施行当初からトラブルが続出します。条約周知やルール徹底の難しさ、鳴り止まないクレーム電話の対応、特に過料の徴収は困難さを極め、そのたびに区職員が奮闘しつつ丁寧に対応し、徐々に千代田区条例の真意である「ルールから、マナーへ」が浸透していったといいます。

全国に広がった禁止条例。課題は高コスト

 タバコのポイ捨てや路上喫煙防止の流れは、1992年に福岡県北野町(現:久留米市)が「北野町の環境をよくする条例」によって、日本初の「ポイ捨て禁止条例」を施行したことが嚆矢とされています。以降、多くの自治体が同様の条例を制定してきました。

 ただしそれらの条例は千代田区条例と違って刑事裁判手続きが必要な「刑事罰」であったため、たとえ違反者を特定できても「罰金」を科すまでが難しく、十分な効果を挙げることができていませんでした。

 しかし千代田区条例の成果を受けて、タバコのポイ捨てや路上喫煙を禁止する罰金だけでなく、積極的に過料が設けられた条例を制定する東京都特別区、政令指定都市、中核市などの多くの自治体が相次ぐこととなりました。今日では全国的に、街中や人通りの多い路上での歩きタバコやポイ捨ては確実に減っているといえます。

 ただし大きな問題として、条例の周知や運用の徹底にかかる人的・物的なコスト負担が非常に大きいことがあります。千代田区自身が“徹底的にやれば効果は上がる”が“中途半端ではあまり効果がでない”と述べていますが、財源豊富な千代田区と違い財源が圧迫している地方自治体はコスト負担が課題であり、例えば神奈川県小田原市は「パトロール費用などのコストが大きすぎる」としています。

 また、条約周知の徹底や運用方法をめぐって訴訟が起きてしまった横浜市の例や、庁舎内の喫煙所を完全廃止したが、周辺の路上喫煙が増加してしまったため府有地に職員用の喫煙所を改めて設けた大阪府の例もあります。それぞれの地域や自治体、実際にその場所で生活する人々ごとに、ベストもしくはベターな運用のための課題は違い、個別具体に応じた対応が求められます。

低コストで意識改革「イエローチョーク作戦」

 県立広島大学経営学科教授の村上恵子氏は、喫煙者自身の喫煙マナーの向上を図ろうとするユニークな取り組みとして、京都府宇治市から始まった「イエローチョーク作戦」を紹介しています。

 イエローチョーク作戦は、もともと路上における犬のフン害を減らす目的で2016年1月より始められました。宇治市ホームページで紹介している「イエローチョーク作戦の方法」は、以下になります。

 まず「黄色いチョーク1本」を用意します。次に、作戦方法として、1)放置フンの周囲に丸をつける、2)「発見日時」を書く、3)時間を変えて現場を見る、3-1)あるとき→「確認日時」を書く、3-2)ないとき→「なし」と書く、4)予防には「パトロール中」と書く、5)「なし」と書いた時間から「あり」と書いた時間の間で、フンを放置していることになる(夜間や早朝など)、とのこと。1)~5)を繰り返すことで犬のフン害が減少すると述べています。

 イエローチョーク作戦によりフン害が減少したことを受け、2017年5月からタバコのポイ捨てにも応用されることとなりました。他方、全国的にもその取り組みが発信されて少しずつ広まり、各地でも効果を上げています。村上氏はイエローチョーク作戦のことを「迷惑を被っている人の存在やその意思を伝え、フンの放置やタバコのぽい捨てを減らそうとするものである。コストもかからず、住民も手軽に取り組める方法」と賞賛しています。

 いかがでしたでしょうか。千代田区条例のように過料を伴う条例には抑止力となり一定の成果を上げている一方で、さらなる条例運用の検討、喫煙マナーの意識改革、分煙施設や設備の充足など、必要な点も多々あることがわかりました。条例運用の先にある、誰にとっても心地よく住みやすいきれいな街となるよう、多角的に心がけていきたいものです。

<参考文献・参考サイト>
・『受動喫煙の環境学』(村田陽平著、世界思想社)
・『路上喫煙にno! : ルールはマナーを呼ぶか』(千代田区生活環境課著、ぎょうせい)
・県立広島大学:観光地におけるたばこのぽい捨ての実態とその対策
http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/pu-hiroshima/detail/1253020171214130325;jsessionid=5A960F63E084CEF17BD50016C4C6D5F8?l=en
(10MTV編集部)

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