テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.10.10

収入や学歴よりも幸福度を上げる要素とは?

 幸福とは何でしょうか。たとえば、高学歴で大企業に勤め、収入がたくさんあって世間の羨むようなステータスをもっていること、これはたしかに幸せの一つの形かもしれません。

 しかし、果たしてそれだけが幸せの形でしょうか。どんなにお金をもっていても不幸な人は不幸ですし、たとえ高学歴でなくても、有名企業に勤めていないとしても、また収入がそれほど多くなくても、幸福度が高い人はたくさんいるはずです。では、ほんとうの幸福とは何なのか、「自己決定」をキーワードに考えていきたいと思います。

日本人の幸福感の最新動向

 神戸大学の社会システムイノベーションセンターの西村和雄特命教授と、同志社大学経済学研究科の八木匡教授は、2018年2月8日から2月13日にかけて全国の20歳以上70歳未満の男女2万人に対して幸福感に関するアンケート調査を行いました。2018年2月ということは、できたてホヤホヤの調査結果です。日本人の幸福感の最新動向を知ることができます。

 さらに、調査結果に対しては所得、学歴、自己決定、健康、人間関係の5つの要素と幸福感との関係について分析がおこなわれました。冒頭にも述べた「自己決定」とは、読んで字の如く、「自分の意思で決める」ということです。

 「自己決定度」を評価するにあたっては「中学から高校への進学」、「高校から大学への進学」、「初めての就職」について、つまり「自分の意思で進学する大学や就職する企業を決めたか否か」について尋ねました。

幸福感の増加は年収1100万円がピーク

 調査結果によると、「年齢」と幸福感の関係では、若い時期と老年期に幸福感が高いことがわかりました。だいたい、35歳から49歳頃に幸福感は落ち込んでいくのだそうです。つまり、幸福感の高い若い時期とは、40代くらいまでということですね。

 「所得」と幸福感の関係をみると、やはり所得が増加するにつれ幸福感も増加しました。やっぱりお金は大切です。ただし、その幸福感の増加は1100万円で最大となりました。2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンも同様のことを指摘しました。年収900万円くらいまでが幸福度の増加のピークにあたるという話です。

「年収」や「学歴」よりも「自己決定」

 5つの要素のうち幸福感に与える影響が大きかったのは、上から順に「健康」、「人間関係」、「自己決定」でした。「年収」や「学歴」よりも「自己決定」の方が大きかったのが驚きです。ちなみに「学歴」は幸福度にはほとんど影響はありませんでした。

 「自己決定」をしてきた人というのは、自分で目標を設定し、それに向かって努力し、目的を成し遂げ、「達成感」を味わっている人たちです。あるいは失敗したとしても、人のせいにすることなく、結果に対して「責任」と「誇り」、高い「自尊心」をもっています。こうした人たちは幸福感が高いのではないかという結論を論文では示しています。

 ただし、残念なことに、国内全体をみてみると、国連の世界幸福度報告書が指摘しているのですが、日本は「人生の選択の自由度」が低いとされています。

無責任社会と子育て

 ほんとうの幸福とは何かを考えることは、ほんとうの教育とは何か、を考えることと通じています。アンケート調査を主導した西村和雄さんは、出演したTOKYO FMの番組「クロノス」において、子育てに関して「子どもが何かをやりたいと言ったときには、やらせてみることが大切」と述べていました。

 また、自分で選択することは「集中力や持続性を高める効果があるため、選択した分野で成功する可能性も高くなる」のだそうです。棋士の藤井聡太さんが受けていたモンテッソーリ教育や、同じくオルタナティブ教育と言われているドイツのシュタイナー教育は自己決定や自発性を重視しています。

 「選択の自由」があれば、自己決定できるようになり、幸福感も高まり、責任をもつようになります。逆に言えば、選択の自由が少ないと、幸福感が減るだけでなく、主体的に関わることを避け、責任をとることをも避けようとするようになるのではないでしょうか。

 いま、無責任な態度は個人だけでなく日本社会全体にも広く蔓延していますが、もしかすると、それを根本的に解決する鍵が「自己決定」という要素にあるのかもしれません。

<参考サイト>
・神戸大学:所得や学歴より「自己決定」が幸福度を上げる 2万人を調査
http://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2018_08_30_01.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

「見せかけの相関」か否か…コロナ禍の補助金と病院の関係

「見せかけの相関」か否か…コロナ禍の補助金と病院の関係

会計検査から見えてくる日本政治の実態(2)病床確保と補助金の現実

コロナ禍において一つの大きな課題となっていたのが、感染者のための病床確保だ。そのための補助金がコロナ患者の受け入れ病院に支給されていたが、はたしてその額や運用は適正だったのか。事後的な分析で明らかになるその実態...
収録日:2025/04/14
追加日:2025/07/18
田中弥生
東京大学客員教授
2

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教

ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
橋爪大三郎
社会学者
3

胆のう結石、胆のうポリープ…胆のうの仕組みと治療の実際

胆のう結石、胆のうポリープ…胆のうの仕組みと治療の実際

胆のうの病気~続・がんと治療の基礎知識(1)胆のうの役割と胆石治療

消化にとって重要な臓器「胆のう」。この胆のうにはどのような仕組みがあり、どのような病気になる可能性があるのだろうか。その機能、役割についてあまり知る機会のない胆のう。「サイレントストーン」とも呼ばれる、見つけづ...
収録日:2024/07/19
追加日:2025/07/14
糸井隆夫
東京医科大学病院 消化器内科 主任教授
4

3300万票も獲得した民主党政権がなぜ失敗?…その理由

3300万票も獲得した民主党政権がなぜ失敗?…その理由

政治学講座~選挙をどう見るべきか(5)政権交代と民主党

民主党は、2009年の衆議院選挙で過半数の議席を獲得し、政権交代に成功した。しかし、その後の政権運営に失敗してしまった。その理由についてはいまだ十分な反省が行われていないという。ではなぜ民主党は失敗してしまったのか...
収録日:2019/08/23
追加日:2020/02/12
曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
5

印象派を世に広めたモネ《印象、日の出》、当時の評価額は

印象派を世に広めたモネ《印象、日の出》、当時の評価額は

作風と評論からみた印象派の画期性と発展(2)モネ《印象、日の出》の価値

第1回印象派展で話題となっていたセザンヌ。そのセザンヌと双璧をなすインパクトを与えた作品があった。それがモネの《印象、日の出》である。印象派の発展において重要な役割を果たした本作品をめぐる歴史的議論や当時の市況を...
収録日:2023/12/28
追加日:2025/07/17
安井裕雄
三菱一号館美術館 上席学芸員