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ネットで話題の「退職代行サービス」とは何か?
ここ数年、面談も拒否され退職届を受け付けてもらえない、転職先が決まっているのに離職票がもらえないといった、退職トラブルが増加しているといいます。そんな中、仕事がやめたくてもやめられない人にとって救世主的な「退職代行サービス」が話題になっています。
それに伴い、全国で「仕事をやめたい人」も増えています。例えば、厚生労働省が2018年6月に発表した「平成29(2017)年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、2017年度の全国の労働局に寄せられた「民事上の個別労働紛争の相談件数」では、「自己都合退職」38,954件(構成比12.8%)が、「解雇」33,269件(同10.9%)や「労働条件の引下げ」25,841(同8.5%)を上回る結果となっています。
そして、自己都合退職すなわち“退職希望”と対をなして増加しているのが、“引き留め”です。
2018年9月18日付の『日本経済新聞』(電子版)によると、リーマン・ショック翌年の2009年度には解雇相談が引き留めの4.1倍あったといいます。しかし、2016年度に引き留めが解雇相談件数を上回る逆転現象が起こり、2017年度はその差がさらに広がることとなりました。
また、特に地方での増加が目立ち、2017年度は東京や福岡など労働力人口の多い大都市を除いた41道県で、引き留め相談が解雇を上回ったそうです。その背景には生産年齢人口の減少などによる人手不足問題だけでなく、地方ならではの産業構造の影響や、独特な人間関係といった事情も潜んでいるようです。
「退職代行サービス」では、パワーハラスメントともいえるような扱いや引き留めを恐れる退職希望者から依頼を受け、本人に代わって退職の意向を企業側に伝え、先方の同意ならびに退職完了までを行います。例えば、代表的な「退職代行サービス」である「EXIT」では、正社員・契約社員は5万円、アルバイト・パートは4万円の料金で、2017年5月の創業以来1年数カ月の間に、500件近くの案件の「退職完了」までを代行しています。
「EXIT」の「退職までの3ステップ」は、1.ご相談、2.お振込、3.EXIT(退職完了)となっています。退職が完了するまで依頼者に代わり、退職に必要な連絡を電話またはメールにて、回数無制限で代行してくれることを約束しています。早ければ数時間で退職完了の連絡をくれるそうで、共同社長・新野俊幸氏によると「弁護士法への抵触を避けるため、退社条件の交渉は一切行わず、退社意思の伝達に徹している」とのことですが、退職できなかったケースは今までに1件もないといいます。
ただし、上記のような理由もあり、退職代行以外は退職者本人が行う必要があります。退職時に必要な手続きに、例えば「会社からの貸与物の返還」があります。「EXIT」では「最後の出勤日に会社に置いてくる」ことを推奨していますが、それができなかった場合は本人から会社宛に郵送することになります。
ちなみに「会社へ返還するもの」の具体例としては、1.保険者証(健康保険の被保険者証)、2.電磁的記録媒体(パソコン・USB・FD・CDなど)、3.制服・制帽・エプロンなど会社から貸与されたもの、4.社員証・バッジ(社章)、5.前払いの交通費や定期券・借入金など、6.名刺、7.ロッカー・机などの鍵、8.その他会社所有の物で個人的に借りていたもの(丸秘書類やマニュアルなど)、があります。
「EXIT」の代行サービスは、初期は主にネット上で話題となっていましたが、各種メディアにその実績が掲載・特集されるだけでなく海外メディアでも取り上げられるなど、さまざまな場所でも注目を集めるようになってきています。またそれに伴うように他業種からの参入や既存企業の需要も増えるなど、「退職代行サービス」が活気づいているようです。
しかし、民法のこの規定は労働基準法のような強行規定ではなく、一般的には任意規定と解釈され、例えば「1カ月前までに退職願いを提出する必要がある」などの「特約」が就業規則にあり、かつ公序良俗に反しない期間である場合(例の「1カ月前まで」は基本反しない)、有効なものと解釈されています。
ただし、金銭の対価としての雇用契約である以上、働く側にも企業を選択し辞める権利はありますし、大前提として体や心を壊したり仕事内容や企業に不信感を持ち憂いがあったりする状態では、まともに働くことはできません。そもそも従業員に「毎日死にたい」などと思わせ、「助けて欲しい」と切実な願いを身近にいる上司に向けられずに、結果として「退職代行サービス」に頼らざるを得ない状況に陥らせていること自体に、企業にもなんらかの問題があり、企業姿勢や雇用契約を顧みる必要あるといえます。
ところで、金銭契約で行う仕事それ自体が、大きな括りでは「代理(エージェント)」サービスになります。産業革命後の近代資本主義経済においては、大量の貨幣を介することによって多くの行為が代理でまかなえることになり、それによって社会は飛躍的に効率的になりました。しかしより複雑化し多様化した現代は、貨幣を得るために誰かの代理として仕事に自身の労働力と時間を提供し、そこで得た対価で違う代理を購入するという旧来のシステム自体に、ゆがみや無理や齟齬が生じているのではないでしょうか。
貨幣を得るための職業としての「代行サービス」と並行して、安心や時間など貨幣に返還しにくい価値を得るための新たな「代行サービス」も乱立し、ますます細分化され専門化された「代理社会」となっていくのかもしれません。
増加する「退職希望」と「引き留め」
総務省統計局が2018年2月に発表した「労働力調査」によると、転職者は2011年より年々増加し、2017年で311万人となりました。それに伴い、全国で「仕事をやめたい人」も増えています。例えば、厚生労働省が2018年6月に発表した「平成29(2017)年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、2017年度の全国の労働局に寄せられた「民事上の個別労働紛争の相談件数」では、「自己都合退職」38,954件(構成比12.8%)が、「解雇」33,269件(同10.9%)や「労働条件の引下げ」25,841(同8.5%)を上回る結果となっています。
そして、自己都合退職すなわち“退職希望”と対をなして増加しているのが、“引き留め”です。
2018年9月18日付の『日本経済新聞』(電子版)によると、リーマン・ショック翌年の2009年度には解雇相談が引き留めの4.1倍あったといいます。しかし、2016年度に引き留めが解雇相談件数を上回る逆転現象が起こり、2017年度はその差がさらに広がることとなりました。
また、特に地方での増加が目立ち、2017年度は東京や福岡など労働力人口の多い大都市を除いた41道県で、引き留め相談が解雇を上回ったそうです。その背景には生産年齢人口の減少などによる人手不足問題だけでなく、地方ならではの産業構造の影響や、独特な人間関係といった事情も潜んでいるようです。
「退職代行サービス」のメリットと注意点
今日的な問題として“退職希望者”と“引き留める企業”が急増する中、画期的なエージェントサービスである「退職代行サービス」が注目され、話題を集めるようになりました。「退職代行サービス」では、パワーハラスメントともいえるような扱いや引き留めを恐れる退職希望者から依頼を受け、本人に代わって退職の意向を企業側に伝え、先方の同意ならびに退職完了までを行います。例えば、代表的な「退職代行サービス」である「EXIT」では、正社員・契約社員は5万円、アルバイト・パートは4万円の料金で、2017年5月の創業以来1年数カ月の間に、500件近くの案件の「退職完了」までを代行しています。
「EXIT」の「退職までの3ステップ」は、1.ご相談、2.お振込、3.EXIT(退職完了)となっています。退職が完了するまで依頼者に代わり、退職に必要な連絡を電話またはメールにて、回数無制限で代行してくれることを約束しています。早ければ数時間で退職完了の連絡をくれるそうで、共同社長・新野俊幸氏によると「弁護士法への抵触を避けるため、退社条件の交渉は一切行わず、退社意思の伝達に徹している」とのことですが、退職できなかったケースは今までに1件もないといいます。
ただし、上記のような理由もあり、退職代行以外は退職者本人が行う必要があります。退職時に必要な手続きに、例えば「会社からの貸与物の返還」があります。「EXIT」では「最後の出勤日に会社に置いてくる」ことを推奨していますが、それができなかった場合は本人から会社宛に郵送することになります。
ちなみに「会社へ返還するもの」の具体例としては、1.保険者証(健康保険の被保険者証)、2.電磁的記録媒体(パソコン・USB・FD・CDなど)、3.制服・制帽・エプロンなど会社から貸与されたもの、4.社員証・バッジ(社章)、5.前払いの交通費や定期券・借入金など、6.名刺、7.ロッカー・机などの鍵、8.その他会社所有の物で個人的に借りていたもの(丸秘書類やマニュアルなど)、があります。
「EXIT」の代行サービスは、初期は主にネット上で話題となっていましたが、各種メディアにその実績が掲載・特集されるだけでなく海外メディアでも取り上げられるなど、さまざまな場所でも注目を集めるようになってきています。またそれに伴うように他業種からの参入や既存企業の需要も増えるなど、「退職代行サービス」が活気づいているようです。
よりよい雇用契約とこれからの代行社会
退職にまつわる法律として、退職意思表示の期限や必要性は、「民法」第627条に「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」と定められています。しかし、民法のこの規定は労働基準法のような強行規定ではなく、一般的には任意規定と解釈され、例えば「1カ月前までに退職願いを提出する必要がある」などの「特約」が就業規則にあり、かつ公序良俗に反しない期間である場合(例の「1カ月前まで」は基本反しない)、有効なものと解釈されています。
ただし、金銭の対価としての雇用契約である以上、働く側にも企業を選択し辞める権利はありますし、大前提として体や心を壊したり仕事内容や企業に不信感を持ち憂いがあったりする状態では、まともに働くことはできません。そもそも従業員に「毎日死にたい」などと思わせ、「助けて欲しい」と切実な願いを身近にいる上司に向けられずに、結果として「退職代行サービス」に頼らざるを得ない状況に陥らせていること自体に、企業にもなんらかの問題があり、企業姿勢や雇用契約を顧みる必要あるといえます。
ところで、金銭契約で行う仕事それ自体が、大きな括りでは「代理(エージェント)」サービスになります。産業革命後の近代資本主義経済においては、大量の貨幣を介することによって多くの行為が代理でまかなえることになり、それによって社会は飛躍的に効率的になりました。しかしより複雑化し多様化した現代は、貨幣を得るために誰かの代理として仕事に自身の労働力と時間を提供し、そこで得た対価で違う代理を購入するという旧来のシステム自体に、ゆがみや無理や齟齬が生じているのではないでしょうか。
貨幣を得るための職業としての「代行サービス」と並行して、安心や時間など貨幣に返還しにくい価値を得るための新たな「代行サービス」も乱立し、ますます細分化され専門化された「代理社会」となっていくのかもしれません。
<参考文献・参考サイト>
・『図解わかる会社をやめるときの手続きのすべて』(中尾幸村・中尾孝子著、新星出版社)
・「労働力調査(詳細集計) 平成29年(2017年)平均(速報)」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/pdf/index1.pdf
・「平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況」
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000213218.pdf
・日本経済新聞:「退職認めない」悪質な慰留横行、解雇相談上回る
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35486420Y8A910C1EA1000/
・退職代行なら「EXIT」| 会社からの非常口はこちら
https://www.taishokudaikou.com/
・『図解わかる会社をやめるときの手続きのすべて』(中尾幸村・中尾孝子著、新星出版社)
・「労働力調査(詳細集計) 平成29年(2017年)平均(速報)」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/pdf/index1.pdf
・「平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況」
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000213218.pdf
・日本経済新聞:「退職認めない」悪質な慰留横行、解雇相談上回る
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35486420Y8A910C1EA1000/
・退職代行なら「EXIT」| 会社からの非常口はこちら
https://www.taishokudaikou.com/
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