社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.12.21

4割が損!なぜ投資信託は損する人が多いのか?

 「貯蓄から投資(資産形成)へ」というスローガンが政府により掲げられてからしばらく経ちましたが、先頃、投資信託を保有している人のうち4割近くが損失を抱えているということが話題となりました。資産形成を行うにはいくつかの投資先がありますが、投資信託はそのなかでも安定的とされている投資先です。

 そこで4割が損をしているというのはどういう理由でしょうか。ここで少し詳しく見てみましょう。

投資信託の46%の人の運用損益がマイナス

 金融庁は主要行9行と地方銀行20行の窓口で投信を買った客全員の、今年3月末と購入時の投信の評価額を比べました。顧客が払う手数料も引き、実質的な「手取り」を試算すると、46%の人の運用損益がマイナスになっていたということです。

 もちろん、金融商品なので価格の上がり下がりがあり、購入した時期によっては損が発生します。しかし、2018年の3月までは株価が上昇基調で比較的「損をしにくい」環境だったと言えます。この状況において4割超の人が損をしていたとなると、単なる投資信託の価格変動ではない要因があることが考えられます。

損をする理由は「手数料」に対する知識か

 損をする理由で大きなものに、「手数料」があります。「手数料」には、購入する際に証券会社などに支払う「購入時手数料」と「運用手数料」があります。「運用手数料」は「信託報酬」や「運用管理費用」と呼ばれ、投資信託を持ち続けている間、ずっと発生するものです。投資信託によって異なりますが、手数料が3%程度かかるものもなかにはあります。「運用手数料」は、運用益に対してかかるわけではなく、購入金額全体にかかるため、手数料が高い商品であればあるほど、大きな運用益を出さなければ、購入者にはプラスになりません。しかも、この手数料は、運用成績が悪く赤字の時であってもかかります。

 問題は、銀行で投資信託を購入する顧客が、仕組みをよく分かっていない場合がおおいということです。実際に、手数料が比較的低い商品を扱い、かつ、投資への意識が高い人が多いネット証券(SBI証券、カブドットコム証券、マネックス証券、楽天証券)では運用損益がマイナスだった顧客は36.1%で、金融庁の発表したデータよりもよい成績です。

「毎月分配型」はお得なのか

 また、投資信託には「毎月分配型」などという聞こえのいい商品もあります。文字通り、毎月分配金がもらえるのでお得なように思われます。しかし、こういった商品は、利益が出ている時は利益から分配されますが、マイナスになれば、原資を削って分配する仕組みになっています。つまり、利益が出ていないときには元手を削って分配金を支払っています。

 一般的に、投資は「複利効果」が大きいといわれています。これは、投資で得た収益をふたたび投資にまわしてより大きな利息を得る方法です。しかし、頻繁に分配金を支払うということは、この「複利効果」を弱めている投資商品とも言えます。元手が小さくなれば、それだけ投資資金が減るので、投資の規模を大きくしにくく、収益率が下がることは想像に難くありません。

 こういった状況を見る限り、投資信託を買う際には、銀行任せにせず、個人が最低限の情報を知った上で検討することが大事だと言えるのではないでしょうか。

<参考サイト>
・金融庁:投資信託の販売会社における比較可能な共通KPIを用いた分析(PDF)
https://www.fsa.go.jp/news/30/sonota/20180629-3/03.pdf
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴

国際社会における中国の動きに注目が集まっている。新冷戦ともいわれる米中摩擦が激化する中、2021年7月に中国共産党は創立100周年を迎えた。毛沢東以来、初めて「思想」という言葉を党規約に盛り込んだ習近平。彼が唱える「中...
収録日:2021/07/07
追加日:2021/09/07
小原雅博
東京大学名誉教授
2

史料読解法…豊臣秀吉による秀次粛清の本当の理由とは?

史料読解法…豊臣秀吉による秀次粛清の本当の理由とは?

歴史の探り方、活かし方(4)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈上〉

実際に史料をどうやって読み解いていけばいいのか。今回から具体的な史料の読み解き方をケース・スタディしていく。最初は『太閤記』に関する参考資料を用いて、太閤・豊臣秀吉と関白・秀次の関係を考える。そもそも『太閤記』...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/22
3

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造

宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
岡朋治
慶應義塾大学理工学部物理学科教授
4

ギャングの代わりに弁護士!? 壮絶なアメリカ労働史の変遷

ギャングの代わりに弁護士!? 壮絶なアメリカ労働史の変遷

内側から見たアメリカと日本(4)アメリカ労働史とトランプ支持層

労働経済を学んでいた島田氏は、ウィスコンシン大学留学中、労働者の教化運動に参加している。アメリカ産業史を学習する中、労働運動の実態を触れ、ウォルター・ルーサーとヘンリー・フォードの熾烈な闘いを知ったからだ。労働...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/18
5

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授