テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.02.18

流行の「定額制」サービス、その利点は?

 「月額定額●●放題」といったサービスが増えています。もともとは本や雑誌の予約販売から始まり、音楽や映画のストリーミングサービスで新しいビジネスモデルとして定着しました。今では洋服や化粧品、コーヒーからラーメンまで、多様なジャンルで「定額制」(サブスクリプション)を利用することができます。

福袋感覚のコスメボックス、定期券効果の飲食店

 女性の「新しい化粧品、話題のコスメはいち早く試してみたい」好奇心と、「いちいち飛びつくほど無駄遣いはできない」現実的な節約心を両立させるのが、月額制コスメボックス。毎月福袋が届くような感覚も女子ゴコロをくすぐります。届いたサンプルを試してみて、気に入れば現物を割安で買ってもらうシステム。新商品へのフィードバックが欲しいメーカー側のニーズにも合致しています。

 こうしたサービスの先駆けといえるのが、「使い放題ブランドバッグ」で2017年のニッポン新事業創出大賞『最優秀賞 経済産業省 経済産業大臣賞』を受賞した「ラクサス」です。エルメスやセリーヌのような超高級バッグを始め、月額6,800円で57ブランドのバッグが使い放題。このサービスは、高額なため失敗できないバッグ選びに遊びや冒険を加えています。

 一方、「定期券感覚で割安に」という消費者心理を狙っているのが、飲食店のサブスクリプションサービス。月額5,800円(初月3,900円)の会費を払えばドリンク飲み放題という「ハンデルスカフェ」、月額8,600円で1日1杯、3商品の中から好きなラーメンを選んで食べられる「野郎ラーメン」などが、すでに定着。ハンデルスカフェでは、順番待ちの状況が続いています。

定額型のメリットは顧客連携だけではない

 サブスクリプション型ビジネスは、「所有から使用」「モノからコト」消費のトレンドに合致していると言われます。顧客の利用状況に合わせてプランを変更したりキャンペーンなどを行うことで長期の利用継続を行えば、安定した収益が期待できるのが一番のメリットです。

 また、商品の購入に比べて顧客の金銭的負担が少なく、気に入らなければ更新しなければよいので、新規顧客の利用ハードルが低い点も提供者側にはメリットになります。

 特に音楽や動画、ソフトウェアなどのデジタルメディアにおいては、「プロダクトを売り切って終わり」から、「トライアル」「月額料金で利用」の2段階にすることで、顧客との距離が縮まっています。これまでは「箱に入ったソフト」を小売店に納品すれば後はお任せだったのが、ダイレクトにつながることで、顧客とのリレーションシップが強化できたのです。

 飲食店などの場合も、常連客を囲い込むことができます。同業他社の多いコーヒーやラーメンの場合、「ラーメンを食べよう」ではなく、「豚野郎を食べよう」に変化することは大きなメリットです。月額会員になれば「何杯でモトがとれるか」と、何度も足を運ぶことから固定ファンが増え、SNSなどを通じてお店の広告塔になってくれるメリットもあります。さらにスマホなどの画面を見せるだけでキャッシュレスな飲食ができるのも魅力。フランス料理店などでは、むしろ「会員制」というステータスにつながる面も魅力になっています。

マイカー、家電離れの救世主になるか?

 こうした動向をにらんで、思わぬ業界もサブスクリプション型ビジネスに名乗りを上げています。自動車業界と家電業界です。

 ブランドバッグとはケタ違いに「高額商品だから失敗できない」のが自動車。マイカー離れになんとかストップをかけようと、トヨタ自動車が2019年1月中にスタートを予定しているのが、愛車サブスクリプションサービスの「KINTO(キント)」。毎月の会費を払えば、複数の車種を乗り換えながら借りられるサービスで、西遊記に登場する「筋斗雲」のように「必要な時にすぐあらわれ、思いのままに移動できる」イメージをねらっています。

 レンタカーとカーリースの中間的な契約内容で、税金や保険、車両のメンテナンス手続きなどもパッケージ化した月額定額サービス。トヨタは、自動車がいつまでも「愛車」であり続けることを願うと発表、運営方法や料金などに注目が集まっています。

 また、総合家電メーカーのパナソニックは最新型のテレビを月額7,800円で提供する「安心バリュープラン」を試験的に導入。コモディティー化の進む家電業界では価格競争で劣勢となりがちな日本製テレビの需要喚起が大きな狙い。2020年には冷蔵庫等のキッチン家電にも対象を広げる目論見です。

「定額制」「サブスクリプション」の動きはもはやデジタルのみにとどまらず、より生活に根ざしたものになってくることは間違いありません。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち

たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロ...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
2

浸透工作…台湾でスパイ裁判が約70件、それも氷山の一角

浸透工作…台湾でスパイ裁判が約70件、それも氷山の一角

習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(5)恐るべき台湾への「浸透」

日本では「台湾有事」における日本への影響を口にする人が多いが、事態はより複雑である。中国の浸透により台湾は分断を深め、内側から崩壊しようとしている。浸透しているのは軍や政府内部の大量のスパイ、反社会組織を通じた...
収録日:2025/07/01
追加日:2025/10/15
垂秀夫
元日本国駐中華人民共和国特命全権大使
3

伊能忠敬に学ぶ、人生を高めて充実させる「工夫と覚悟」

伊能忠敬に学ぶ、人生を高めて充実させる「工夫と覚悟」

伊能忠敬に学ぶ「第二の人生」の生き方(1)少年時代

伊能忠敬の生涯を通して第二の人生の生き方、セカンドキャリアについて考えるシリーズ講話。九十九里の大きな漁師宿に生まれ育った忠敬だが、船稼業に向かない父親と親方である祖父との板ばさみに悩む少年時代だった。複雑な家...
収録日:2020/01/09
追加日:2020/03/01
4

ジョークの精神…なぜ人は厳しいときほど笑いを磨くのか

ジョークの精神…なぜ人は厳しいときほど笑いを磨くのか

世界のジョーク集で考える笑いの手法と精神(1)体制を笑うジョークと諷刺の精神

「ジョークは時代を映す鏡」といわれる。現代でも、紛争や戦争に直面する厳しい状況はもちろん、一部の専制国家では自由な言論が封じられた社会で、多くの人びとが暮らしている。そうした抑圧された環境下では、体制を笑う諷刺...
収録日:2024/03/14
追加日:2024/06/14
早坂隆
ノンフィクション作家
5

水平離着陸で宇宙へ、近未来のロケット像と進む技術開発

水平離着陸で宇宙へ、近未来のロケット像と進む技術開発

未来を知るための宇宙開発の歴史(12)宇宙推進技術はどこまで進化したか

ロケットは縦に発射されるのが通常思い描かれる姿であり、それが常識だったが、より快適に、より安価に飛ばすために新たなエンジン開発も進んでいる。また、宇宙空間においても、より広範囲に、あるいは長時間活動するための技...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/10/12
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士