テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.05.31

満員電車からの解放!鉄道会社の有料サービス

列車の有料着席サービスが大好評

 フレックスタイムを導入する企業が増え、駅構内ではオフピーク通勤を推奨する広告も見られるようになった近年ですが、やはり通勤ラッシュはつらいですよね。2018年の東京圏主要区間の平均混雑率は163%で、1980年代の200%レベルからは緩和されてきましたが、まだまだ快適とはとても言えない状況です。仕事を始める前からもうクタクタという方も多いのではないでしょうか。

 そんな「痛勤」から解放される手段として注目を集めているのが、列車の有料着席サービスです。これは、定期券のほかに追加料金を支払うことで列車乗車時の着席が保障されるサービス。多くの場合、500円程度で利用できるため、「少し多めに料金がかかっても快適に通勤したい」というビジネスパーソンを中心に大好評で、列車によっては満席になるほどの人気です。

 通勤利用への対応を意図した有料着席サービスの原型は、1967年に小田急が関東で初めて開始したといわれます。当時は認められていなかった特急の定期券利用を可能にしたことで利用客が増え、他の私鉄各社もこれにならって同様のサービスを始めました。2018年12月には東急が座席指定列車・Qシートを導入し、現在は都内の大手私鉄全社が有料着席サービスを行っています。

鉄道各社の狙いとは

 つらい通勤ラッシュを回避できる有料着席サービスは、利用客にメリットがあるのはもちろんのこと、鉄道会社にもメリットがあります。着席保障の追加料金によって収益を増やせるだけでなく、沿線のブランド化にも一役買ってくれるからです。

 有料着席サービスを実施する路線が通っていれば、都心から離れたベッドタウンでも通勤地獄に苦しむことはありません。通勤時間を勉強や読書にあてて有効利用もできます。また毎日利用するわけではなくても、体調が悪いときや荷物が多いときに座れるとわかっていれば安心ですよね。このような通勤への優しさをアピールして、沿線住民を獲得しようというわけです。

 私鉄各社が有料着席サービスに力を入れているのは、自社の不動産部門が沿線の開発を行っているからなのです。小田急は小田急多摩センター駅をはじめとする他社との競合が激しいベッドタウンで始発を増やし、他社ユーザーの取り込みまで狙っています。これに対し小田急のライバル筆頭である京王も、座り心地の快適さを追求したシートを設置している新型車両を開発するなどして差別化をはかっており、鉄道会社間での有料着席サービス競争に拍車がかかっています。

今後は企業の枠を超えた広がりも

 この一連の動向に遅れを取るまいと、JR東日本も2019年3月から、中央線特急「あずさ・かいじ・富士 回遊・はちおうじ・おうめ」の普通車は全席指定可能とする着席保障サービスを開始しました。このシステムはすでに常磐線特急ひたち・ときわで実施されていたもので、着席保障サービスの広がりを受けて新たに中央線への導入が決まったものです。

 JR東日本の着席保障サービスは私鉄各社の同様のサービスと少し異なり、特急料金が必要で座席指定の追加料金は不要。指定が入っているかは座席上方のランプの色でわかるので、空席なら座席未指定でも座ってもよいシステムです。JR東日本では2023年に中央線快速へのグリーン車導入も予定しており、現在急ピッチで駅の拡張工事が行われています。

 さらに東武と東京メトロは、2020年に東武スカイツリーラインと日比谷線の相互直通列車への有料着席サービスを開始すると発表しました。運行区間や停車駅、料金などはこれから追って明らかになります。首都圏では複数の会社が乗り入れて長距離区間を運行していることが多いので、会社が異なってもまとめて席を指定し、決済できれば便利ですよね。

 「通勤はつらくて当たり前」という考え方はもう過去のもの。今後も有料着席サービスのような通勤を快適にする取り組みは、さらに広がっていくでしょう。

<参考サイト>
・国土交通省 東京圏で混雑率180%超の路線が12路線から11路線へ
http://www.mlit.go.jp/report/press/tetsudo04_hh_000068.html
・【公式サイト】京王ライナー 開発秘話
https://www.keio.co.jp/zasekishitei/special/story/story2.html
・中央線が、変わる。│JR東日本
https://www.jreast.co.jp/change_chuo-line/
・中央快速線等へのグリーン車サービス開始時期および車内トイレの設置について│JR東日本
https://www.jreast.co.jp/press/2018/20180402.pdf
・東武線・東京メトロ日比谷線相互直通列車に有料着席サービスを新たに導入します!│東京メトロ
https://www.tokyometro.jp/news/2019/200801.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

55年体制は民主主義的で、野党もブレーキ役に担っていた

55年体制は民主主義的で、野党もブレーキ役に担っていた

55年体制と2012年体制(1)質的な違いと野党がなすべきこと

戦後の日本の自民党一党支配体制は、現在の安倍政権における自民党一党支配と比べて、何がどのように違うのか。「55年体制」と「2012年体制」の違いと、民主党をはじめ現在の野党がなすべきことについて、ジェラルド・カ...
収録日:2014/11/18
追加日:2014/12/09
2

5Gはなぜワールドワイドで推進されていったのか

5Gはなぜワールドワイドで推進されていったのか

5Gとローカル5G(1)5G推進の背景

第5世代移動通信システムである5Gが、日本でもいよいよ導入される。世界中で5Gが導入されている背景には、2020年代に訪れるというデータ容量の爆発的な増大に伴う、移動通信システムの刷新がある。5Gにより、高精細動画のような...
収録日:2019/11/20
追加日:2019/12/01
中尾彰宏
東京大学 大学院工学系研究科 教授
3

マスコミは本来、与野党機能を果たすべき

マスコミは本来、与野党機能を果たすべき

マスコミと政治の距離~マスコミの使命と課題を考える

政治学者・曽根泰教氏が、マスコミと政治の距離を中心に、マスコミの使命と課題について論じる。日本の新聞は各社それぞれの立場をとっており、その報道の基本姿勢は「客観報道」である。公的異議申し立てを前提とする中立的報...
収録日:2015/05/25
追加日:2015/06/29
曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
4

BREXITのEU首脳会議での膠着

BREXITのEU首脳会議での膠着

BREXITの経緯と課題(6)EU首脳会議における膠着

2018年10月に行われたEU首脳会議について解説する。北アイルランドの国境問題をめぐって、解決案をイギリスが見つけられなければ、北アイルランドのみ関税同盟に残す案が浮上するも、メイ首相や強硬離脱派はこれに反発している...
収録日:2018/12/04
追加日:2019/03/16
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

健康経営とは何か?取り組み方とメリット

健康経営とは何か?取り組み方とメリット

健康経営とは何か~その取り組みと期待される役割~

近年、企業における健康経営®の重要性が高まっている。少子高齢化による労働人口の減少が見込まれる中、労働力の確保と、生産性の向上は企業にとって最重要事項である。政府主導で進められている健康経営とは何か。それが提唱さ...
収録日:2021/07/29
追加日:2021/09/21
阿久津聡
一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻教授