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右肩上がりの「冷凍食品」業界のいま
冷凍食品はおいしいのが当然の時代に
2019年10月の消費税増税では軽減税率が導入され、テイクアウトの食品は税率8%に据え置きとなりました。一方で外食は税率10%に増加したため、外食を控えるようになった方も多いのではないでしょうか。この動向には多くの食品メーカーも注目しており、「中食(調理済み食品を家庭で食べる形態)」需要の増加に期待を寄せています。中でも冷凍食品は注目株。近年は増税以前から自宅で飲酒する「家飲み」人気が高まっており、半数はひとり飲みを楽しんでいます。そこで冷凍食品メーカー各社は味の素が2018年2月に「夜九時のひとり呑み」シリーズを発売したほか、日本水産からも「おうちおつまみ」シリーズなどが登場。味の素は今年もおつまみになる「ひとくち餃子」を新発売しており、増税後の需要増加に応えるラインナップを充実させています。
実は現在、おつまみに限らず冷凍食品は右肩上がりで売り上げを伸ばしている分野です。その理由のひとつは、なんといっても「おいしくなった」から。少し以前の冷凍食品のイメージといえば、パサパサして見た目も貧相……という感じでしょう。しかし日本冷凍食品協会が2019年2月に行ったアンケートでは、冷凍食品の魅力について「おいしい」と回答している人が50%を越えました。この傾向は年度ごとに増加しており、若い人ほど高くなっています。
マルハニチロが2019年10月に行ったアンケートによると、消費者がよく購入する冷凍食品は1位が餃子、2位がからあげ、3位がハンバーグでした。また、昔よりおいしくなったと思う冷凍食品は1位が餃子、2位がからあげ、3位がチャーハンという結果に。餃子が人気のようです。確かに、人気メニューのわりに作るのは大変な餃子が、冷凍食品でおいしく手軽に作れるなら買いたくなりますよね。
具体的な商品では、2019年4月16日に放送されたTV番組「冷凍食品総選挙」の結果を見ると、1位がニチレイの本格炒め炒飯、2位がイートアンドの大阪王将羽根つき餃子、3位はニチレイのえびピラフでした。ただしこの番組では大手の味の素が不参加だったため、味の素が参加したらまた違った結果になったでしょう。
需要が高まり続ける冷凍食品
このように盛り上がりを見せる冷凍食品市場ですが、どれくらいの勢いで規模を拡大しているのでしょうか。味の素の発表によると2018年の冷凍食品市場は約8千600億円で、2014年度と比較して10%増とのこと。冷凍食品の売上が前年より下がったのは、中国製冷凍餃子の食中毒事件が起きた2008年だけなので、実質は毎年着実に伸びているといえます。右肩上がりの市場となれば、新規参入も相次ぐのは当然のこと。2018年9月には、雑貨や生活用品でおなじみの「無印良品」ブランドを展開する良品計画が冷凍食品の販売を開始しました。ラインナップには「キンパ(韓国風のり巻き)」や「五目いなり」など、無印良品のコンセプトを生かしたナチュラルで体に優しいアイテムが並びます。良品計画では現在の売上構成比で8%となっている食品の割合を30%まで上げるとしており、本腰を入れての参入であることがうかがえます。
また2017年にはフランス発の冷凍食品専門店ピカールが、イオンと提携して日本に上陸。青山や広尾などのいわゆるおしゃれな街に出店しています。ラインナップも「リコッタチーズとほうれん草のカネロニ」や「ラタトゥイユ」などおしゃれなアイテムが多く、このイメージ戦略が功を奏して500~1000円というやや高めの価格帯設定ながらリピーターを獲得しています。
冷凍食品市場は今、従来のメーカーによる手軽でおいしい商品の開発が進んだだけでなく、丁寧な暮らしやおしゃれなイメージのアイコンにも進化しているのです。
今後も成長は続くのか?
それでは、冷凍食品市場の快進撃はこれからも続くのでしょうか。実は少子化の影響で、お弁当分野の需要は頭打ちの状態です。日本冷凍食品協会のアンケート結果でも、冷凍食品を購入している目的は「自宅で食べる夕食」が最多で、次に「自宅で食べる昼食」、その次に「お弁当用」となっています。冒頭でご紹介したおつまみ分野の開発が進んでいる理由には、お弁当用以外の道を見出す必要があった事情も影響しているでしょう。現在の冷凍食品市場を支えている消費者の大きな柱は、共働き世帯と高齢者です。特に老老介護やひとり暮らしの高齢者は、体調によって料理ができないこともありますよね。もし料理ができても、ガスコンロを消し忘れて火災になるおそれもあります。また、肉や野菜などを買ってきてもなかなか食べきれずに腐らせてしまうことも。しかし電子レンジで調理できる冷凍食品なら、消し忘れの心配もなく生の食材よりずっと長く保存できます。高齢者にとって、冷凍食品は頼もしい味方なのです。
今後も少子高齢化がいっそう進むことは間違いありません。富士経済の調査によると2017年の高齢者向け食品市場は約1千600億円と見られ、2025年にはここから約1.2倍の約2千億円に増えると見込まれています。冷凍食品市場が今後も成長を続けられるかは、高齢者向け商品の充実にかかっているといえるでしょう。
実際、高齢者向け冷凍食品の開発は急速に進んでおり、2019年1月に開催された高齢者食や介護食の展示会「メディケアフーズ展2019」では10社以上の冷凍食品関連メーカーが出展しました。出展商品は高齢者でも食べやすい柔らかさを重視しており、これからは手軽でおいしいだけでなく食べやすさも追求した冷凍食品が増えていくと考えられます。
<参考サイト>
・マルハニチロ 冷凍食品に関する調査 2019
https://www.maruha-nichiro.co.jp/corporate/news_center/news_topics/20191009_research_reisyoku.pdf
・日本冷凍食品協会 平成31年 冷凍食品の利用状況”実態調査について
https://www.reishokukyo.or.jp/news-public/8453/
・SankeiBiz 冷凍食品業界 中食市場拡大へ商品拡充
https://www.sankeibiz.jp/business/news/190709/bsd1907091947016-n1.htm
・食品産業新聞社 冷凍の高齢者食、需要は増加傾向に 「メディケアフーズ展2019」で各社訴求、大冷は「フィッシュ・デリ」、極洋は「だんどり上手」でやわらか食
https://www.ssnp.co.jp/news/frozen/2019/01/2019-0128-1310-14.html
・マルハニチロ 冷凍食品に関する調査 2019
https://www.maruha-nichiro.co.jp/corporate/news_center/news_topics/20191009_research_reisyoku.pdf
・日本冷凍食品協会 平成31年 冷凍食品の利用状況”実態調査について
https://www.reishokukyo.or.jp/news-public/8453/
・SankeiBiz 冷凍食品業界 中食市場拡大へ商品拡充
https://www.sankeibiz.jp/business/news/190709/bsd1907091947016-n1.htm
・食品産業新聞社 冷凍の高齢者食、需要は増加傾向に 「メディケアフーズ展2019」で各社訴求、大冷は「フィッシュ・デリ」、極洋は「だんどり上手」でやわらか食
https://www.ssnp.co.jp/news/frozen/2019/01/2019-0128-1310-14.html
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