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人生100年時代を生きる「還暦からの底力」とは
人生100年時代、日本は「定年」発想から脱却すべき
皆さん、ご存じでしょうか。国民的人気を誇るマンガ『サザエさん』の父である磯野波平さんは、実は54歳という年齢設定です。『サザエさん』の舞台は1950年代~1970年代を中心としており、その当時の定年は55歳が一般的でした。波平さんも引退時期間近の人物として、いかにもそれらしく描かれていたのでしょう。時代は昭和から平成、令和へと移り、今や人生100年時代。高年齢者雇用安定法により、2025年4月から「65歳定年制」になるというご時世です。しかし、人生100年を実りあるものにするには、この「定年制」がネックだと指摘するのが、立命館アジア太平洋大学学長で『還暦からの底力』の著者である出口治明氏です。今までなら「ご苦労さまでした。これからはゆっくり余生を楽しんでください」と赤いちゃんちゃんこが贈られる還暦の60歳は、人生の折り返し地点を過ぎたばかりのところで、ここからが楽しめるときなのだと論じています。世界的にみても、定年制、年功序列という発想は日本独自のもの。これからは年齢フリーで、公私ともに自身の人生を幸福にする考え方、その術を身につけるべきなのです。
年を重ねてからのほうが若い頃より早く学べる
では、還暦を折り返し地点にそこから先の人生を豊かに楽しむにはどうすればよいのでしょう。出口氏は「人間はどう転んでもそう立派な存在ではない。所詮、『西遊記』に出てくる猪八戒程度のものと心得て、そんな存在でも人生を豊かにしようと思ったら学ぶしかない」と力説します。60歳になっても学び続ける、新しいことを学ぼうとするのはきつい、と思われるかもしれませんが、出口氏は「年を重ねてからのほうが若い頃より早く学べるはずだ」と言います。なぜならば、経験によって勉強のコツが分かっているからです。また、曲がりなりにもさまざまな知識の蓄積があるので、一つの知識を得ると既存の知識と結びついて、新たな価値観や発想、気づきを得ることができるといいます。これはいわば、脳内で起きる知識の化学反応のようなもの。若い人が真似のできない早さと広がりで、新たな価値創造ができる。これが還暦からの学びの面白さ、還暦からの底力といえるでしょう。
ピア・ラーニングで一生学び続ける
学びの過程でむくむくと頭をもたげるのは「怠けごころ」。これには老若男女を問わず注意は必要ですが、これも出口氏は還暦からの底力を発揮して解決することができるとアドバイスします。学びの仕組みをつくって「ピア(仲間)・ラーニング」をすればよい、と。例えば、何かの会に入るのもよいでしょう。人脈を生かして仲間を集め、同好会、サークルの類を始めてもよいかもしれません。ピア・ラーニングのメリットは、なんといっても競い合いにあります。一人で黙々と本を読んだり学んだりするよりも、仲間がいれば「より多くの知識を取り入れて、皆に話してみよう」「あの人の意見はいつも新たな発見があって素晴らしい。自分も頑張ろう」といった向上心につながります。「あいつには負けたくない」「負けて悔しい、恥かしい」といった競争心ではなく、経験者ならではの競い合い、向上心に灯をともすことができるのも年の功ではないでしょうか。
出口氏いわく、実り豊かで楽しい人生、おいしい人生はおいしいご飯を調理するのと同じで、それは因数分解をしてみればよく分かります。いろいろな食材(知識)×クッキング能力(考える力)が、料理の幅、おいしさの選択肢を広げる。知識も考える力も同様で、還暦までの蓄積を生かしながら、それ以後の学びで格段に伸ばすことができる、ということです。
もし周りに還暦を迎える人がいたら、赤いちゃんちゃんこではなく、赤の万年筆、赤い縁のリーディンググラス、あるいは赤い表紙の辞書など学びの道具を贈ってみてはいかが。
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